今回、テクストとして使用する『小松左京のSFセミナー』は『日本沈没』で、日本SF文壇の最高峰ベストセラー作家となり、星新一、筒井康隆両氏と並んで「日本SF三大巨頭」と呼ばれた小松左京氏が、自らが関わった映画『復活の日』(1980年)から『さよならジュピター』(1984年)との間の円熟期に、ありとあらゆる視点・論点から「SFとは何か」への、文学的アプローチを担って、1982年に集英社文庫から発行された、当時のSF観を伺う上で必携・決定版の一冊である(表紙画やイラストは、SFマニアでもあった小松ファンの漫画家・とりみき氏)。
『小松左京のSFセミナー』の概要
本書で小松氏は、全体の構成を7講に分け、SFの歴史、SFの定義、現代におけるSFの文学的使命、文学におけるSFの不断性等をそれぞれで語り、この頃はまだ大前提として有効であった「SFという、知的で自由な思考遊戯こそが、高尚でありインテリズムであり、人間論であった」を証明せしめているのであるが(もちろん、その論調は当時においてのみ有効であった、文学論、大衆娯楽小説論が前提であり、現代での立ち位置は若干異なるのではあるが)、同時に筆者など「遅れて生まれてきた、SF第三世代層」にとっては、他ならぬ小松氏ならではの主観と、尋常ではない客観フィルターを通して「SFとは何か」を伺い学ぶ、絶好のテクストであったことも間違いない。
ここで少し話題が逸れるが。
筆者にとって、この書籍が出た頃の、80年代初頭までは、本当の意味で「SFとの蜜月」の季節であり、ハヤカワ文庫、新潮文庫、角川文庫をはじめとして、およそコバルト文庫やソノラマ文庫に至るまで、古今東西の日本SF小説は、およそ『宇宙塵』から発せられた新人群や、日本SF作家クラブが成立され、そこの著名な作家による作品群ぐらいであれば、毎日一冊の文庫を読むペースであれば、まだまだ数年で、その殆どを追いかけ、追いつくことも可能な時代であったのだ。