前回は『『犯罪・刑事ドラマの50年を一気に駆け抜ける!(70年代をナメるなよ)』Part2』
『七人の刑事』(1961年)はもちろん、テレビドラマ文化史に今も残る金字塔作品、佐々木守の『ふたりだけの銀座』や、早坂暁による渾身の名作『埋葬』を生み出した、60年代を代表するドラマである。
『ふたりだけの銀座』は、まだ銀座の歩行者天国が日本一の若者の憧れだった時代。
田舎で拉致された婚約者の恋人を追って東京へやってきた青年が、拉致され犯された自棄で、すっかりアバズレ化してしまった恋人に拒絶されたショックで自暴自棄になってしまった挙句、その恋人といつかと夢見ていた幸せ溢れる銀座の歩行者天国で、通り魔殺傷事件をしてしまうショッキングな内容。
『埋葬』は、米兵相手に売春をしていた女性が、米兵の子を孕んでは一人で産んで、土に埋めて殺すを繰り返していた話で、子どもを埋めた場所には工場が建ってしまい、犯罪を立件できないまま、全ては闇の中に葬られていくという内容。
かように、60年代の高度経済成長期の裏にある闇や影を切り取り続けた『七人の刑事』であったが、その『七人の刑事』も1978年に新シリーズで再開された。
その脚本家のラインナップがまたすごい。
佐々木守とジェームス三木、早坂暁辺りの参加はもちろんのこととして、『白い牙』(1974年)の山浦弘靖、『胡桃の部屋』(1981年)の向田邦子、『妹』(1974年)の内田栄一といった辺りもちゃんと参加しているかと思えば、その一方で『日本の夜と霧』(1960年)『ウルトラマンタロウ ウルトラ父子 餅つき大作戦!』(1973年)の石堂淑朗大先生、『3年B組金八先生』(1979年~2011年)の小山内美江子、『陸軍中野学校シリーズ』(1966年~1968年)の長谷川公之までをも含めた、超豪華陣。
東宝で(松田優作版ではなく、仲代達矢主演の)『野獣死すべし』(1959年)を監督し、佐々木守とともに植木等主演の『日本一の裏切り男』(1968年)で、戦後日本の流れをブラックコミカルに描いた須川栄三監督が『黒髪の告発』『北川刑事の辞職』等の脚本を執筆する傍らで、詩人でもあり、金城哲夫の師匠格として『ウルトラQ』『ウルトラマン』(共に1966年)を支えた山田正弘が、子役時代の尾美としのりをゲストに迎えた『思春期』を書く。
一方で『グイン・サーガ』で知られた小説家の栗本薫が脚本参加していたことも有名で、栗本は久世光彦監督と組んで、大ファンだった沢田研二をゲスト主役に迎えて、内田裕也と探偵コンビを組ませて(ある意味『傷だらけの天使』全編を模倣する形で)「やるせなさ過ぎる70年代の終焉」を描いて見せた(久世監督は『悪魔のようなあいつ』で、既に沢田研二を演出していたので、お手の物だったろう)。
その、沢田研二主演でカルトな魅力を(これでもかと)発散させた怪作・傑作映画『太陽を盗んだ男』(1979年)の監督の、ゴジさんこと長谷川和彦監督も、脚本家としてやはり沢田研二をゲストに『ひとりぼっちのビートルズ』を書く。
強姦されて自殺したラジオの女性DJの復讐を果たすため、タクシー運転手だった沢田研二が、強姦犯人達を撃ち殺して回るという、タイトルからして、事件背景設定からして、『ふたりだけの銀座』へのアンサー感がアリアリの、この長谷川和彦脚本・浅生憲章演出・ジュリー主演による「過ぎ去った60年代へ向けた『二人だけの銀座』」。
完成した本編では最初からラストまで、ビートルズの『Let It Be』がかかりっぱなしで、沢田研二のキャラには、ロバート・デ・ニーロが1976年に主演した『タクシードライバー(原題:Taxi Driver)』の影響もありまくりであった。
いやしかし、ここまで書いてきてまぁつくづく思うのは、この時代の犯罪ドラマのハコ組み立てにおける「女性が強姦(もしくは輪姦、もしくは拉致、誘拐)されて、その女性を愛していた男が、復讐を果たそうとする」というプロットの多さよ(女性読者の皆様、すみません……一言でいうと「そういう時代」だったんです)。
『七人の刑事』シリーズは、その後も1998年に単発ドラマとして『七人の刑事~最後の捜査線』が製作されたが、シリーズ続編が侮れないと言う意味では、初作『大都会 闘いの日々』が、犯罪の奥にある切情を描いたにも拘らず、続編では、装いも新たに、凶悪犯罪撲滅集団と化した『大都会 PartⅡ』(1977年)も、忘れちゃいけない「男性脂成分濃厚作品」だろう。