――僕の世代のメカ作画の伝説になった、『クラッシャージョウ』の「コルドバ90度回頭」も、今となってはロストテクノロジーですねぇ。

『クラッシャージョウ』より、コルドバ回頭シーン

出渕 手描きではもうあり得ないですね。『ヤマト2199』だって、CGで出来るからアレが出来たわけであって、アレを(手描きで)縦横無尽に動かすなんてのは、いまは無理です! あれもマジでやろうとするとメカシーンは膨大になるんで、超絶手描きアニメーターが二桁くらいいないと。出来ても「トメヒキ」ぐらいですね。無理無理……無理っていうか、今後は全部CGになっていっちゃうんでしょうね、メカは、極端な話、寂しい話。ただまぁ「気持ちよい動き」っていうのはあるんで。 CGはどうしても、そのままだと計算された嘘つけない動きになってしまいますから。CGオペレーターは絵が描ける人じゃないし、動きのタイムシートとか参考原画を入れて、アニメーターの人がタイミングを見るというのはあるかなあ。みんな歳をとって、老眼とかあるんで絵が描きにくくなっていくんだけども。そういう画面上の動きを指示していくのはあるかな。板野なんかそうだし。板野さん元々、画そのものはぐにゃぐにゃした線なんですけど、動くと凄い!あの人はタイミングで見せてる人ですから。

――アナログとデジタル、概念の違う技術同士が混在しているのが今のアニメ業界なんですよね。

出渕 そうですね。アニメーターの中でも若手とかはもう、(原画を)タブレットで描いている人も多いですし。でも、昔から上手い原画の人は、そっち(デジタル作画)へ行く人もいますが、アナログで頑張っている人もまだまだ残られてますね。ただ『ORIGIN』のこの前(2015年の映画版)の映像も、今西(隆志)さんが頑張って監督していて、D.I.D(サンライズD.I.D.スタジオ)でCGもやってるんだけど、安彦さんが全然CGに対して理解がなかったらしくて。(今西監督が)安彦さんに、こうこうこうして、こういういろいろなことが出来るんですよって説明してたらしくて。だからってCGで何でも出来るって思われちゃ困るんですけど(笑) でも、艦隊戦とかだと、戦艦とかディテールも凄いし塊だしでしょ。やはりそっち(CG)の方がやりやすいし、動かす演出に幅をもたせやすいんですよ。

――素人考えなんですが、モノそのものに可動部が少ない戦艦メカを演出する方が、関節単位で可動箇所が独立しているロボットを動かすより、CGでも簡単なものなんでしょうか?

出渕 でっかい物(戦艦)が動いてくるのって、やっぱり作画だと、一枚絵を描いての「トメヒキ」だったら出来ますけど、とりあえずさっきのコルドバが向こうからガーッってカットとか、アニメーターが何人か死ぬわけじゃないですか。それか、描いたデザイナーが責任取って描かされる。コルドバの場合は正ちゃん(河森正治氏)でしたが(笑) でも(CGなら)一度モデリングしちゃえば、向こうから向かってきてドーンとUPになるようなカットもそんなに手間をかけずに可能なんですよ。ロボットだとキャラ芝居になるんで、ある程度(デザイン段階からの)情報量をコントロールすれば、確かに作画の方が(仕上がりが)気持ちいいことってあるんですけど、大きいメカはCGでやった方がいいと思います。人間的な動きは手描きの気持ちよさがまさるとこではありますが、やはりディテール等の情報量が多いと作画するのは物理的にしんどい。例えば戦車のキャタピラの動きなんて、作画じゃ絶対アンタッチャブルな世界なわけです。「このワンカットだけ」とかガッチリ見せようっていうのならまぁまだやれるかもしれないですけど、CGだとモデル(データを)組んじゃえば可能です。戦車とかを動かすのは、『ガールズ&パンツァー』(2012年)なんかもそうですけど、CGの技術がここまで来てなければ無理。それなしでは考えられない。企画すら通ってなかったですよ。あれ、キャタピラ一枚一枚でなんか、作画じゃ絶対出来ませんからね。「迫ってくるキャタピラ」みたいなカットで、この1カットだけなんでなんとか作画で頑張ろう!みたいなとこであったり、(戦車が)横位置で、キャタピラがよく見えない感じで、ガーッって動いてる程度のカットなら、昔もあったりしましたけれども。でも、斜めで超信地旋回(の作画表現)なんて無理ですよ(笑) だから、そうなるとまだ旧式の戦車なんかだと作画出来るんですけど。『風の谷のナウシカ』(1984年)みたいに、宮崎さんがキャタピラを旧式戦車みたいにそんなにごちゃごちゃしてない、作画しやすい感じにアレンジして動かして見せてたみたいにね。でもやっぱり今は、そういうのはモデル組んだ方が効率は絶対いいですね。

次回は「出渕裕ロングインタビュー12 出渕裕と市川大河アンチと『傷だらけの天使』と」

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