その中で、夕方の最後の方のカットで、チーフが僕のところに来て言った。
「悪いね、ヘルプくん。すまないが、トラを使い切ったんだが、次のカットで今まで写っていないトラが二人いるんだ。カップルの設定で、女性はまだ写ってない人がいるんだが、男性がもういない。ここは一つ、次のカットは内トラを頼めないかな」

ギョーカイ内部とは思えない、ジェントルなチーフの言葉に、僕は素直に頷いた。
そして、初対面のトラの女性とカップル設定で、細川俊之さんが娘役の女優さんに頬を打たれて去るのを「驚いて立ち止まって眺めてしまう役」で出演した。
何があったかといえば、それだけである。
内トラ経験なんて、昨日今日始まったことでもなく、正確な資料もない今、内トラ扱いで出た作品を全部上げていこうとしても、リストは作れないし、全てのタイトルを覚えてもいない。

すべてを失った男役の細川俊之と、これぞバブルというファッションの樋口可南子

実際、日々の業務の多忙さにかまけて、そのドラマの本放映も観ないまま、いつしかその仕事のことも忘れていた。
それから、軽く四半世紀が経っただろうか。
いっぱしの市川森一研究家」になった僕は、知り合いの市川森一クラスタの方からいろいろ資料を頂いており、その整理をしながら、作品一覧に次のような作品を見つけてしまった。

『タフガイが死んだ日』(シナリオタイトル『裕次郎が死んだ日』)

1987/10

松竹 女優競演サスペンス

脚本市川森一

監督瀬木宏康

助監督藤嘉行

樋口可南子、細川俊之

石原裕次郎が死んだ日、ルリ子(樋口可南子)は横浜で金子(細川俊之)という裕次郎にかぶれた男と知り合った。金子は会社を経営していたが、不況で倒産。毎日、債権者に追い回されていた。

日本映画専門チャンネル番組広報資料より

あ……アレ?
お……俺?
なに? コレってアレ? コレがアレなの? 『裕次郎が死んだ日』が、多分「あそこのプロダクション」から文句が来て『タフガイが死んだ日』に変わったとか、そういうアレがありそうなんだけど、コレ、アレ?

僕、知らない間に、市川森一脚本ドラマの助監督を、ヘルプとはいえ一日やっていたの?
というか、ってぇーいうか。
むしろサ。
つまりサ。
そこで内トラとはいえ、しっかりドラマ内に出演したってことは、僕は「『市川森一ドラマ』に出演した」経歴が、しっかり在るってことだよね!?

いや、もちろん「その論理」はただの自己満足であり破綻しており、世間では通用しないのも理解はしているが、僕の市川森一マニア(そう、僕のこのペンネームは、2006年に「市川森一好きだから市川」で付けたのだ)を知っている人ならば、まぁ僕の驚天動地ぶりは理解はしてもらえもしよう。

大河さん出演カット。画面左奥のカップルの、白いジャケットの男性が20代の頃の僕

世間で通用しなくても、自己満足の域を出なくても構わない。
僕は「それでも」正真正銘、「市川森一のドラマに出演した」事実に嘘はないと言い切れるからだ。
うん、だから僕は、僕の俳優としての出演記録に『タフガイが死んだ日』(1987年)市川森一作 客船の男A」を書き記しておこうと思う。
僕の中では、幾つかある「市川森一氏との繋がり」の一つでもあるからだ。
まぁ、日々がブラック仕事フル回転だった時代の、小さく細やかな置き土産だと、僕は思っている。

次回は「市川大河仕事歴 出演仕事編Part4 『イマドキのアニメ塾』」

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