平松 (見た目と年齢に関しても)これと多分、同じような感覚なんでしょうね。昔は老けていたのに、気づいたら自分を軸に、どんどん周りの人間が若くなっているっていうのがあって。でも演技はそうではないんですよね。若い俳優さんはどんどん出てくるわけだから、そうすると、やはり年相応演技を出来るようになって、若い人と差別化を図らなければならない。今でも「六十代を演れ」と言われればできるんですけど、(演技が)声だけになると、ちょっと難しいんですよね。全身を使えばできるんですよ。声だけではやっぱり難しいですね。

――先ほど、今の自分では、もうダバのような思春期の青年を演じるのは無理があると仰って、そして今のご自身の年齢を演じるのも難しいと仰ったとき、平松さんの中で、今一番ストレスなく、演技に幅を持たせながら演じられるキャラは、何歳ぐらいのキャラがベストなんでしょうか?

平松 多分三十代後半から、四十代半ばだと思います。

――ということになると、やはり『らき☆すた』の泉そうじろう役になりますね。

平松 そうですね、あれはもうちょっと声が高いところに(キャラの発声の設定が)あるんですけれども、(今ならば)もう少し落としても、多分できると思うんです。あの辺りが一番楽だと思うんですよね。

――今日のインタビューの最初の方で、平松さんが「今のアニメってあんまり興味がない」と仰っていて、僕も実は、アニメオタクかと言われると、意外とイマドキのアニメをそんなに追っかけなかったりするんですけれども。平松さんご自身が、まだまだ(株)ガジェットリンクの代表として、先陣を切って現場に出られていこうとするのか。それとも、後進の育成や若い人のバックアップっていう方向に軸足を移すのか、気になります。

平松 今もう、ほとんど後進の育成の方に、軸足を向けているんですよね。(キャストとして)呼ばれたら行きます、というスタンスにしているので、年に一本出ればいいかっていうところで、やってるんですけどもね。もう少し若いの(所属声優)が稼働する人数が増えてくると、僕ももう少し楽に、自分の好きな芝居ができるようになっていくんじゃないかって感じてるんですけどね。今あまり、自由に自分の好きな芝居をやっちゃうと、(株)ガジェットリンクの運営を放り出すわけにもいかないんです。

――平松さんからしてみた時、アニメの「お父さん役」の声優として「役を演じて頂きたいんですけど」とオファーが来るのと、どこからか舞台の芝居をやらないかという話が来るのと、どちらが興味深いでしょうか。

平松 多分、会社的にはアニメですね。個人的には舞台の方が楽しいです。僕は、これはもうずっと変わってないスタンスなんですよね。ただ、しばらく舞台をやっていないので、自分が舞台に耐えられる体力を、今キープしてるのかどうかっていうのは、ちょっと心配は心配なんですよ。かなりエネルギー消耗しますからね。

――でも、今回、本当にお話させて頂いて思ったのは、僕が本当に『エルガイム』を大好きだったんですけど、その頃まだ高校生だったんですよ。本当に毎週観るのが楽しみで、でも今、こうしてお話させていただくと、平松さんが六十代で、僕が五十五歳ですから、大人同士としてはそんな変わらないですよね。でも今思っても、十代から二十代にかけてって、五、六年の差って馬鹿でかいんですよね。

平松 そうだ、そうだ。確かにそうですね。僕も東京に出てきて、二十一歳か二十二歳ぐらいの時に、小学生からおじさんと言われた時に、すっごい傷つきましたもん(笑)。なんだ僕っておじさんなんだって(笑)。

――こうして、若い頃に憧れていた方にインタビューをさせていただく時、いつも思うのは、思春期までに憧れていた方が、自分が大人になっても、さらに素敵な大人でいらっしゃるのを知った時なんですよね。今回は、縁あって平松さんに、こうしてインタビューをさせていただいたわけですけれども、このサイトを閲覧してくださってる方に、最後に平松さんの方からメッセージをお願いします。

平松 はい。声優・平松広和って、そんなに、僕自身、有名な方だと思ってないですし、たいした演技力があるとも思っていない、本当に些細な存在だと、自分は常々思っているんですけども。そんな些細な人間でも、何かをこう、ひとつ自分の好きなことをやり通してくると、見えてくるものがあるって言う事が、やっとまあ、この歳になってわかってきたかなと思うんで。この、市川大賀さんの公式サイトを読む人って、多分(市川大賀と)同じような感覚の持ち主だと思うので、皆さん「それ」を、いつまでも忘れないようにやり続けてください。自分の好きなことをやるのが(人にとっては)やっぱり幸せなんですよ。そして、自分が幸せな人間は、おそらく他人に対して優しくなれて、他人を幸せできる可能性がある人間なんです。なので、オタクと言われたら、にっこり笑って「はい!」って答えられる、素敵な年寄りに、僕はなろうと思うので、皆さんもその道をしっかりと歩んで行くようにしてください。

――平松広和さん、今回は長い時間お付き合い頂き、本当にありがとうございました。

平松広和氏所有『重戦機エルガイム』第1回、最終回の台本

(2021年11月12日収録)

『声優・平松広和の私道 Mk-2』(Voicy)

『平松広和の私道』(YouTube)

取材協力 (株)ガジェットリンク

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