(今回の円谷プロ作品画像は、全て映像の焼き抜きではなく、筆者による再現特撮でお送りします)


日本に生まれた男性で、60歳以下であれば、必ず親しんだ『ウルトラマン』(1966年)をはじめとしたウルトラシリーズ。
それはデザイン面においても当時の子ども向け番組に対してはパイオニアで、それまでの、『スーパーマン』モドキの『〇〇仮面』と違ったグランドデザインをはじめとした、ヒーロー、怪獣のデザインの先進性とオンリーワン性については、筆者もここシミルボンでこれまでにも、デザイン面、造形面で語ってきた。

そんな彼らの功績で、特に初期ウルトラは(欧米へのコンテンツ販売という商的戦略もあって)狙い通り無国籍な雰囲気が近未来的ビジョンと繋がり、今見ても古く見えないという普遍性を獲得したのだが、そんな円谷ウルトラでも、当時の他の日本のドラマと同じく、欧米ドラマを意識した……もっとはっきり言ってしまえば「これ、パクリだよね?」としか思えないデザインも、各所に散りばめられていて、「それ」を探すのも、ウルトラファンの嗜みであると同時に、あまりにもウルトラを神格化し過ぎないように自戒するブレーキの役目も担うと、筆者は思っている。
決してそれらは悪事ではない。オマージュ、パスティーシュ、パロディ、いろいろな判断の仕方があるだろうが、少なくとも「当時」の「映像」の「国を跨いだ」決め事や法律で、禁じられた好意であれば、それは不法行為なのであろうが、今、半世紀前のそれらを知ることは、断罪することでも冷やかす行為でもなく「改めて学ぶ」ことであると、今回筆者はしっかりアピールしたい。

例えば、誰もが知ってるだろう、『ウルトラマン』の科学特捜隊。そのオレンジのユニフォームがこちら。

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未来的なデザインでありつつ、レスキュー隊を思わせるオレンジと、中に着込んだワイシャツとネクタイの存在が「このチームは軍隊じゃない」を記号的に観る者に想起させる高次元な近未来性との融合。
放映当時は、日本の映像界でそんな衣装を用いた撮影など皆無に等しかった時代ゆえか、毒蝮三太夫氏も小林昭二氏も「ロケでこの格好で屋外にいるだけで恥ずかしい」と思っていたそうだが、子ども心に「大きくなったらなりたい職業(着てみたいコスチューム)」ナンバーワンに輝くほど憧れだった科特隊制服。
しかし、肩から下がってくるベルト部分や、ボディ中央を走る分離帯など、実はこのデザインは、『ウルトラマン』がオリジナルではなかったのである。
実はこのユニフォームのこの特徴は、1956年のアメリカSF映画から持ってきたデザインなのである。
まずは、嘘偽りないことを画像で観て頂こう。

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これは上でも書いた、1956年『禁断の惑星』(Forbidden Planet)のスチル写真。
映画は2200年代の宇宙冒険を描き、この制服よりインパクトと人気を得たロボット「ロビー」は、無数のSFビジュアルでオマージュされ、ある種のジャンルにまでなるほどで、その50年代にしては深遠なテーマも、後の『機動戦士ガンダム』(1979年)富野由悠季監督が、次作『伝説巨神イデオン』で取り入れたほど。
さてこれらの対比を「偶然の産物」ととらえるか。「おおらかな時代の文化交流」ととらえるか。
判断は皆さんにお任せして、ネタは次へ行きたいと思う。

時は1965年。
日本では円谷英二の怪獣映画がブームを加速させテレビに参戦しようとしていた直前期。
英国のテレビで、一つの特撮SF作品が大ヒットを飛ばした。
そのドラマの名前は『サンダーバード』 (Thunderbirds)。制作したのはGerry Andersonプロデューサーで、それ以降彼の作品は「アンダーソン作品」と呼ばれることになる。
映像は、アニメと日本の特撮の中間で、人間ドラマはあるが俳優は直接登場することはあまりなく、基本的に今の目で見てもハイエンドな人形劇で展開され、特徴としてはどのアンダーソン作品も、スタイリッシュで科学的なメカ達がミニチュアで、縦横無尽に活躍する作劇で、大人も子どもも魅了したのだ。

既に欧米では社会現象を起こしていたこの番組が、日本ではやや遅れ、まさにテレビ界を「ウルトラ」が席巻し始めた1966年(また筆者の生まれ年だ)4月よりNHKで放映され、当然のごとく瞬く間に大人気番組に成長。
劇中主役の「国際救助隊」が使いこなすサンダーバード1号から5号までをはじめとした、数十ものメカのプラモデルを、今井科学株式会社(当時)がプラモデルとして発売することとなり、その頂点でもある「サンダーバード秘密基地」キットをはじめとして、どれもベストセラーの売れ行きを誇った。

そうなると、負けていられないのが日本では先行していたウルトラだ。
負けないためには、真逆のオリジナリティで勝負する手もあるが、円谷プロは、あえてサンダーバードがウケた要素を取り入れることで、一度掴んだ子ども達の心を離さない方を選んだ。

例えば「ドリルメカ」
今の目で見れば、ドリルメカなどは一つのジャンルであって、そこに固有の才能やセンスは見いだせないかもしれない。70年代のロボットアニメでも、敵も味方もドリル装備ロボットは数多く登場し、イマドキのダメオタクなどは「ドリルは漢のロマンだ」等と、分かるような分からないような戯言をキャッチフレーズにしている。
しかしこの「ドリルメカ」。その元祖は紛れもなくアンダーソン作品の『サンダーバード』に登場するジェットモグラ(この名称は日本人だけの認知で、言語では「The Mole」つまりモグラ)であり、「巨大なドリルを先端に持ったキャタピラ戦車という基本ルックスで、そのドリルで行く手の土や岩石を砕き、地下を物凄い速さで突進していく」は、この時点でいきなり完成されていた。

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今井のサンダーバードプラモデル ジェットモグラタンクのプラモデル大ヒット商品パッケージ

実は無粋な事を言えば、現実の物理学では、この種のスタイルのメカを実際に作り上げても、地下を掘り進むことは出来ず、稼働したとしても先端のドリルが地面に刺さったまま、機体の方が回転するだけだし、運よく地下まで進めても、先端のドリルで砕いた土砂や岩石を、後方へ排出するシステムがなければ前に進めないというのは、多少なりとも科学常識と物理法則を持っていれば当たり前なのだが、当時としてはこれで充分説得力はあったデザイニングの勝利であったといえるだろう。
プラモでも、サンダーバードシリーズの中では2号の次に売れ行きが良かったらしく、ゼンマイでドリルを回しながらキャタピラで走行するジェットモグラは売れに売れ、大ヒットを記録したという。

その商品枠を狙って、というわけではないのだろう。
早速同年に始まった『ウルトラマン』でも、1967年の年明け早々の第29話『地底への挑戦』で、科特隊の新メカとして、地底戦車ベルシダーが登場、活躍する。

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『ウルトラマン』地底ドリル戦車ペルシダー
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『地底への挑戦』でのペルシダーの活躍シーンの再現

ご覧のとおりベルシダーは、先端に巨大なドリルを構え、キャタピラで走行する構造。これは誰がどうみても、ジェットモグラの影響下にあるとしか思えない。
しかしこれは、言ってしまえば玩具化的に、ジェットモグラの柳の下の泥鰌という意味ではなく、事実放映当時ベルシダーは玩具化はされなかった。
むしろ、『サンダーバード』でのジェットモグラ演出での、卓越した表現力と、地中を突き進むドリル戦車特撮に、円谷プロ自身が挑んでみたというチャレンジ精神の賜物だろう。

しかし、そうしたモチベーションの高さとは関係なく、商売は商売。ビジネスはビジネスだ。
サンダーバードプラモデルで1966年の玩具売り場のプラモデル売り場を席巻した今井科学に対して、元祖「プラモデルのマルサンとしては忸怩たる思いがあった。
ウルトラシリーズで資本提供していたマルサンは、今でこそ怪獣ソフビの企業として思い出されることは多いが、元々はプラモの会社であり、我々が日常用語で使う「プラモデル」という呼称も、マルサンが登録返上するまでは、マルサン固有の登録商標であったほどなのだ(なので他社は当時は「プラキット」等の名詞を使っていた)。

1966年の『ウルトラQ』『ウルトラマン』を、怪獣ソフビで稼ぎまくったマルサンは、続く東映『キャプテンウルトラ』を跨いだ円谷ウルトラ第三作を、アンダーソン作品に負けないレベルでの、超科学メカが縦横無尽に活躍する作品にと要望し、それらを今度はプラモデルとして商品化して、自社のメインストリームであるプラモデル市場で大儲けする算段にでた。

マルサンが社名をマルザンと変えた1967年。円谷ウルトラシリーズ第三弾『ウルトラセブン』がスタートされた。
そこでは、前作『ウルトラマン』と、ジャンルそのものを変えるべくして、防衛組織も『サンダーバード』に負けじと陸海空の多数のメカを揃え、どんな敵にも負けぬ戦力で作劇を展開したが、そうなるともう、組織の全体像自体が誰がどうみても軍隊になってしまう。そして敵が宇宙人がメインになり、怪獣も宇宙怪獣だけとなれば、基本設定が「宇宙戦国時代」ともいうべき、恒星間戦争時代を舞台にしなければならず、そうなると当時の円谷文芸部の長・金城哲夫氏のイデーへの配慮が全くない「宇宙戦争物」にしなければいけなくなったことは、これはこの段では余談になるが、金城氏を追い詰めていく遠因になったのだろう。
閑話休題。
とにかく最新のウルトラシリーズは、出資者意向で宇宙戦争メカ物で行くことは決まった。マルザンは当初から、それまでの最大の売れ筋だった怪獣ソフビを捨て去り、対象年齢を多少上げて、ウルトラ警備隊のメカのプラモデル中心で商品を展開することを決めた。

「それ」は実際のマルザンの当時の商品に事実として残っている。
マルザンは『ウルトラセブン』で、ウルトラ警備隊のメカはくまなく何種類ものサイズでプラモデル化し、メインメカはソフビ化までして売り込んだが、ではそのソフビで売られた怪獣や宇宙人はというと、主人公のウルトラセブンこそ、歴代ウルトラ史上最大の商品数で売られたが、後はセブンの子分ともいうべき、カプセル怪獣二体の他は、セブンを代表する大怪獣エレキングが商品化され、後半になって慌てて「これも『ウルトラセブンのメカ』だから」という苦しい言い訳のように、敵宇宙人ロボットのキングジョーとユートムが商品化された以外は、ゴドラ星人、イカルス星人、メトロン星人の三人しか敵宇宙人は選ばれず、セブンと防衛軍のメカ以外は、合計8体「しか」ソフビ化されずに終った。

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