結局はチャンバラ時代劇かよ!
しかも、その間成田は成田で「おのれハンス王子!」だの、千葉は千葉で「その罪、万死に値する!」だの『柳生一族の陰謀』(1978年)まんまのノリの大仰な台詞を、いちいち時代劇がかった抑揚の語り口調で叫ぶことで、音響的にも(SFからは、遠く離れていく角度で)観客達を、その一騎打ちの空気に、引きずり込んでいくのである。
『スター・ウォーズ』がビジュアルイメージとして演出してみせた電光刀という要素は、アニメでは『機動戦士ガンダム』(1979年)がビームサーベルとして、特撮では『宇宙刑事ギャバン』(1982年)がレーザーブレードとして、それぞれ独自の表現に取り入れていくのではあるが、それはこの時点ではまだ先の話。この時代ではまだまだ、日本特撮界の作画合成の神様・中野稔をもってしても、千葉と成田がフルスウィングスピードで振り回す、刀のフィルム全てに、光学合成を施せるほどの、術も予算もなく、アルミ製剥き身の刀が振り回される中、刀が交わられる瞬間や、敵を切り裂く演出に火花のイメージでちょこっと電光が合成される程度。
しかしそこは千葉と成田。金と時間がない分は気力と眼力と迫力でカバーするのが東映流。そこそこ金をかけて広めに作ったガバナスの本陣セットで、硬そうだったり、意外と柔らかそうだったりする、しかも角が生えた兜と鎧を着込んで、マントをなびかせて、二人の大物俳優が縦横無尽に駆け回って刀を交える。
千葉VS成田の真剣勝負と言えば「そっち方面」がお好きな人にはたまらないシークエンスだろうが、残念なことに千葉真一は兜の中は白塗りメイクだし、成田三樹夫は(というかガバナスは全員)顔を銀色に塗られていて、今一歩、というか今百歩くらい、真剣勝負が真剣勝負に見えてこないのが痛いところか。
なるほど。冷静になって考えてみればこの映画。「銀色のおしろいを顔に塗りたくった連中」を「記号論的には日本人ではない」とすれば、意外と「日本人のキャラ」率は低いのである。(それが俳優的に何かメリットがあるのかないのかはともかく)ガバナス以外でも、佐藤允はもとより、三谷昇や織本順吉等の名バイプレイヤーに至るまで、原型を留めないほどに「特殊」に「メイク」がなされている(誤解なきように言明しておくが「それ」は決して、80年代ハリウッド映画を席巻した「特殊メイク」のことではない)。
この映画では(東映主観的に)「日本人であるメインキャラ」は、実は真田広之と丹波哲郎、そして岡部正純くらいのなのだろう(志穂美悦子は微妙)。後はまるで「自分は日本人なんかじゃありません」とばかりに、無国籍な人種のふりをしているのである。千葉だって、誰がどう見ても「濃すぎる日本人面」なのにも拘わらず、白粉メイクをしただけで、白人のつもりでいるっぽい(しかも、成瀬正演ずるヒキロクに至っては、既にもはや人間ですらない、『仮面ライダー』(1971年)の怪人レベル)。
まぁ確かにソレは、せいぜいが幼稚園児の「そこにあったお菓子を食べたのは僕じゃないよ! 僕は食べてないよ! 窓から知らないおじさんが入ってきて勝手に食べて、また窓から出てったんだよ!」レベルの「聞いてるだけで悲しくなる嘘」でしかないのではあるが。
つまり要するに。(旬は過ぎていたとはいえ)ハリウッドの大物大スター・Vic Morrowを招いたのも、名も顔も知らぬ米国俳優が、メインキャラの宇宙暴走族とお嬢様を演じるのも、日本人俳優キャストの殆どに、暗黒舞踏のようなメイクを施したのも、全ては是「海外輸出で大儲け」を、疑うことなく確信犯的に目論んだ東映の、東映による東映のための、銭金大戦略だったのである。
しかし、(欧州各国ではそこそこヒットしたものの)肝心の米国では、ユナイテッド・アーティスト社が100万ドルを投じて買い付けて公開したものの、文字通り「公開ではなく後悔」する羽目になってしまった。
下世話に銭金の話を妄想してみる
一説によれば、この映画には総額15億円が費やされているという。そういわれれば豪華な気もしないではないが、言われても納得できない部分も多い。
いっとき騒がれた「グルーポンのお節料理」じゃないけど、いったいこの作品のどこに、15億円は消えてしまっていったというのだろうか?
矢島特撮はまぁ、その後の『宇宙刑事』シリーズ(1982年以降)の初期パイロット作品のバンク用特撮カット等と比較すると、1億か2億くらいか(一応公式アナウンスでは『特撮費用は4億円!』だとか)多分それくらいは割いてるはず。ガバナス本拠地をはじめとして、不時着した1/1サイズの宇宙船など、セット代もまぁそこそこかかっているのだろう。
しかし総額15億はちょっと眉唾である。
もちろん古来から「映画会社が自社告知する『制作費』とは、純然たる制作費だけでなく、膨大な広告費やパブ費用など、公開に漕ぎ着けるまでに掛かった費用の総額をアナウンスしている場合が多い」は真理だし、実際その通りなのだが。
仮にギャラが(あくまで外野の想像お遊び範疇だけど)Vic Morrowに1億、千葉と成田とそれぞれ5千万が支払われていたとしよう。丹波先生も1億もらったとしよう。しかしそれでも合計3億円だ。後のメンツにはどう考えても、30万円以上支払われてる様子は伺えないし、岡部正純のギャラが300万円とか言われたら、個人的には「それはよかったね!」と心が温まるだろうが、実際に作品を観た観客と、一般社会はそれを許さないだろうし、そもそも東映はそんな太っ腹な会社じゃない。
挙句には「謎の白黒ロボコンモドキ」の中の少年は、日給3千円以上もらえていたのかどうか、心配するレベルの会社のやることである。
一介の物書きが想像するだに、その「総制作費15億円」のうち、おそらく数億はVic Morrowの招聘根回し経費で消え、さらにVic Morrow接待費で消え、残った金のうち数億は、そこからさらに千葉御大の「何か」へと消えていき、さらに「矢島信男の酒代」も、そこには加算されたのではないだろうか?
まぁ、銭金の詮索話は、これ以上は妄想の域に達するので置いておくとして、ここで少しこぼれ話をするのであれば、製作当初のキャスティング段階では、佐藤允が演じたウロッコを室田日出男が、岡部正純が演じたジャックは川谷拓三が、それぞれ演じる予定であったらしい。
まぁ配役変更経緯は、あまり書けない事情もあるので誤魔化して飛ばすことにする。言われてみれば確かに、室田日出男や川谷拓三の出演する『宇宙からのメッセージ』も観たかったような気がしないでもないが、しかしやはり、というかむしろ、そういう方向でキャスティングされればされるほど、より『帰ってきた極道』(1968年)とか『激突! 殺人拳』(1974年)だの『恐怖女子高校 不良悶絶グループ』(1973年)だのといった「東映といったら、やっぱコレでんがな、コレ!」的作風へ、傾いてしまっただろう。