安藤 そうそう。それとあの作品にはね、三條美紀が出ているんだけど、実は昔、僕がエキストラやってるときに、三條美紀のお父さん(男優の佐藤圓治氏)に、映画の色んな理論や技法の講義を受けているんですよね。で、そういうことがあって、せっかくの初監督作品だから三條美紀を使ってみようと。三條美紀はもちろん知りませんよそんなこと(笑)
――三條美紀さんの使い方も上手かったですよね。「一般人が宇宙人や悪の怪人に精神をのっとられる」という描写は、その後70年代には『仮面ライダー』(1971年・東映)などで、子ども番組では頻繁に見られる描写になりましたが、特に『あなたはだぁれ?』では、小林氏以外はそういった設定やキャラを演じ分けるという、そういう経験は三條美紀さんも、大山デブ子さんもなかったはずです。安藤監督の演技指導や演出プランはいかがだったんですか?
安藤 要は、あの作品を撮る時に一番大切なのは、昼間と夜、宇宙人と地球人が、入れ替わるところなんですね。それを、どう入れ替わったように見せるかっていう一点に尽きるんだよね。三條美紀はそういうわけで、使ってみようというのがまずあったんだけど、警官役を演じたのは、銀座プロで僕とずっと一緒だったやつなんだよ。松本敏男って言って、クレジットでは他の人と間違えられて出ちゃってますけど、銀座プロであいつとは、私生活も含めると何十年も一緒にやっていて、あの頃でもう既に10年くらいの付き合いだったのかな? 彼がやった警官は、一見重い役には見えないかもしれないけれど、狂言回しという位置で、大変大事な意味合いが(あの警官という役柄には)あって、そういう意味ではあいつと僕で、しっかりと話し合いが出来ていたし、他の三條さんや大山さんが、彼に引っ張ってもらえたところがあったんだよね。
――普通の地球人が宇宙人と入れ替わるという演技プランを含んだ演出は、安藤監督がちょうど助監督として鈴木俊継監督についた、第27話『サイボーグ作戦』でも行われました。その作品と『あなたはだぁれ?』を見比べると、安藤監督と鈴木監督の演技指導能力やリアリズム描写の差が、はっきり感じられます。
安藤 あぁはいはい、宇宙人に連れ去られてサイボーグにされて戻される話ね。
――『あなたはだぁれ?』は決して、ただの段取り棒立ち演技じゃないんですよね。
安藤 そんなの当たり前じゃない(笑) 一緒にしちゃだめよ(笑) 僕が描こうとした『あなたはだぁれ?』の怖さっていうのは、明日は自分の身に降りかかるかもしれない怖さ。それが表現できなかったら、それはやっぱり駄目でしょう。これが出せなかったら、作る意味なんかないわけですよ。そのためには、誰が見たっておかしいんじゃない?っていう演技じゃ困るわけだよ(笑)
――小林氏演ずる主人公の困惑が、視聴者も困惑させなければならないわけですね。
安藤 そうなんだよ。そういうこと。
――そのために、カメラの主観視点を様々な技法で使い分けて、小林氏の視点に視聴者を誘導して融合させる力学に絞ったんですね。
安藤 そうです。結構皆は気が付いてないけど、僕は自分を映像派だと思ってる(笑) 今、市川大河さんが言われたそれが、意外と自然にこなされてるから、実相寺(昭雄)さんほど映像派だとは、僕は思われてないんですよ(笑) その当事ね、結構僕は映像派と呼ばれた映画をたくさん観ていて、そういう視点から見てみると、実相寺が映像派だって言われてることへのギャップがあって、あぁこれは独りよがりなんじゃないの?っていう部分が、僕の中にはある。