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『仮面ライダーV3対デストロン怪人』タイトルバックからして爆発が主人公なのが分かる

当時周囲の大人達や教師、PTA等が「ライダーごっこは危ないからやめさせろ」と、いちいちお説教臭く言ってきては、ウザいものだと思ったものだけれども、この年齢になって改めて大人視点でライダーブームの絶頂期作品を観てみれば、アクションの数々で、崖から落ちるわバイクごと転倒するわ、ナチュラルに爆破されるわ 
これ、子どもが「ここで放り投げられてるのはショッカーの改造人間だから」という、阿吽の呼吸のエクスキューズがあるから当時は気にせず観ていたけれど、冷静になって考えれば「……これ、普通に人何人か死んでるよな」とツッコメるレベル。
筆者が当時の大人でも、人権的に子どもの将来の価値観的に、文句の一つも言いたくなる、気持も痛いほど良く分かる按配で「命のやり取りのフィクション」が、「どうみても実際に命がやり取りされてる」ドキュメンタリズムの迫力で展開している。

「本物か偽物かをちゃんと見抜ける子どもの目」は怖いというのは子ども向けの常識だが、そこで円谷プロダクション国際放映ほどには「ちゃんとしたドラマ」等とうてい作れなかった東映は(それは資質的にもそうだが、当時の東映を襲っていたロックアウトの影響もあるだろう)「嘘誤魔化し一切無しの、本当に命を懸けたアクション」をカメラに収めることで、高尚なドラマツルギーやテーマ性を誇る同時代の作品群を振り払い、観る子どもの審美眼を魅了する「アクションと爆発とアクションと爆発」を展開させた。

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……死ぬわ、こんなん!

そのアクションでも、もちろん本郷猛(藤岡弘、)も一文字隼人(佐々木剛)も、ノリノリでシャープなアクションに体当たりで挑んでいるのでカタルシスは強いんだけど、それ以上に、千葉治郎宮内洋のアクションのキレっぷりが、奥さん本当にッパねぇっす
千葉治郎氏は、元祖体当たり系アクション俳優とでも言うべき千葉真一氏の実弟であられ、『仮面ライダー』初期に、藤岡氏のアクシデントによる出演不能状態での(それでも、変身した後のライダーさえ出しておけば、制作は続行できると判断した、当時の東映も凄いっちゃ凄い。番組開始当時は低視聴率で惨敗状態だっただろうに)、物語前半部分での、生身のアクションシーンの充実を図るために、「ショッカーの秘密を追うFBIの捜査官」っていう、今思えばツッコミどころ満載の設定で登場。
以降二年間の『仮面ライダー』長丁場を、二人の主人公の相棒役として支えていく訳だが、やっぱりそこは「千葉家」の筋金入り遺伝子の賜物なのか、アクションを観ていると、子ども心にもはっきり分かるレベルで「主役よりアクションが上手い」という。
一応演出的にも、その弊害はスタッフ側でも認知されていたようで、資料によると「主役と共にショッカーと戦う時は、主役が戦闘員を三人倒したら、滝和也(劇中での千葉氏の役名)の方は三人目には倒されるように」とバランスをとっていた。

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富士山麓をサイクロンで駆け抜ける、ぼくらの仮面ライダー!
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俳優的には全編で一番ポテンシャルが高かった、滝和也役の千葉治郎

しかしこの滝和也、FBIの捜査官とはいえど、ライダーのような改造人間でもないのに、神出鬼没過ぎて、ショッカーが開発した「よくわかんないけど凄ぇ破壊光線」の直撃を受けて空中爆発したヘリコプターからもちゃんと脱出できていたり、ライダーがショッカー怪人に囲まれ、ショッカー基地に潜入困難な流れの中でちゃっかりと、いきなりショッカー基地内部に潜入できていたりと、ツッコミ始めると枚挙に暇がない。
だが、そこが「伊上流」だ。ただの人間の滝にそこまでの芸当が出来るのだ。
それが改造人間のライダーであれば、何をか言わんや、つまり理屈なぞもうどこにもない。

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『V3対デストロン』クライマックス。敵味方まとめて大砲で吹き飛ばすという戦略が実に東映っぽくて素敵

滝と共にショッカー基地に潜入したと思ったら、罠にかかって閉じ込められる本郷猛。
室内には毒ガスが噴霧され絶体絶命のピンチ! よし、天井の蓋から天井裏へ逃げるのだと、本郷と滝は肩車をして天井の蓋を開けようとするのだが、何故か蓋が開かない。
なぜなら天井の蓋の上に(つまり天井裏に)怪人が乗っかって押さえつけている!
いや、なんでお前はそこにいるんだよとしか突っ込めない!
天井裏にいるくらいなら、最初から下に降りて怪人らしく戦うとか、せめて天井の蓋を予め溶接しておくとか、小学校三年生レベルの知恵も回らない、敵と味方の命を賭けた間抜け合戦
その結果「これで仮面ライダーは溶けてしまったはずだ」と蓋を開けて部屋を確認しても、部屋の中にはライダーはおらず、いきなり怪人の背後(天井裏)から現れるライダー!
「どうして!?」と問う怪人の、当たり前すぎて僕も知りたい問いかけにもライダーは、「俺の威力を忘れたか!」とだけ言い放ち、密室脱出トリックの謎は放り投げ!
百歩譲ってライダーの脱出劇は「まぁ改造人間だからね」で済ませられたとしても、相棒の滝は人間の筈で(まぁこちらはこちらで「千葉ちゃんの弟だものね」という理屈が通用しないでもないが)それが伊上流の真骨頂

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