吉田秋生という漫画家

吉田秋生という漫画家(同姓同名で、しかもメジャーなテレビ演出家もいらっしゃることは有名)が、例えば大学の漫画学部等のアカデミズムや、論文などで語られる時には、必ず「ポスト大友克洋の、女性漫画家フォロワーの代表例」として挙げられるだろう。
それは、描線や絵柄だけではなく、少女漫画らしくない代表作の『BANANA FISH』における、作劇やキャラクター造形、サブカルチックなガジェットの使い方などを見ても、およそ大友克洋の影響と尊敬を、多大に抱いてる漫画家であることは窺い知れる。

代替テキスト
吉田秋生『櫻の園』

一方で、筆者がここにおいての書評で何度も言及してきた「性の壁」に関しては、これは絵柄や構図を似せることでどうすることが出来る問題ではない。
だからなのか、『吉祥天女』『BANANA FISH』の次に吉田秋生の代表作になった本作『櫻の園』は、徹底した「女性にしか描けない、少女たちが大人へなろうとする瞬間の鮮やかさを、高速度フィルターのカメラで写し撮ったエモーショナルな一枚」のような、鮮烈で鮮やか、そしてそれは「絶対に変わることのない、普遍的な少女性」を、正確に客観視した形での模写であったからであろう、時代を超えてなお、全く古臭さを感じさせない、オムニバス・アンソロジー漫画として、今もなお新しい読者を魅了し続ける作品になった。

とある女子高。
桜の木に囲まれた「ごきげんよう」で挨拶し合う、表向きはお嬢様学校の演劇部が舞台。
ここでは、毎年春の創立記念日にAnton Pavlovich Chekhov『桜の園(Вишнёвый сад)』を演じるのが習わしになっていて、物語はその舞台の幕が上がる瞬間をラストシーンに設定した上で、そこで集う、演劇部に在籍する多感な少女達の、ハイティーンという、人生で一番繊細で成長速度がマックスな瞬間を、登場人物単位で切り取っていく『グランドホテルスタイル』で描かれる。

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