代替テキスト
一刻堂と名乗る京極堂(笑)

それだけではない!
脚本とデザインだけでは、イメージが伝わらないと思ったからなのか(いや、普通は思わないんだけど)ちょっといろいろ、文士劇とかでも芝居の腕に覚えのある京極大先生。なんと、並み居るプロ声優のベテラン勢に混じって、自らが、自らをモデルにしたキャラの別人の(えぇい! ややこしい!)一刻堂の吹き替えを、演じてしまったではないか!

代替テキスト
京極台本の妙味!

結果、京極夏彦氏は、『鬼太郎』第4シリーズ101話『言霊使いの罠!』において、自らが脚本を書き、そこに自らの作品の主人公を登場させ、そのデザインと声と演技を、全部一人でやってしまうという、John Howard Carpenterみたいな離れ業(というか反則業)を、たった一人で成し遂げてしまったのだ!

「いいかね、この世に不思議なものなどない!」

『言霊使いの罠!』一刻堂 台詞より

いや! 京極大先生! あなた自身が不思議すぎます
もうね、ここまで威風堂々と清々しい私物化ってね! かつて黄金の変身ブーム絶頂期に、それら変身ヒーローの生みの親である漫画家の石森章太郎先生が、自作のテレビ版『仮面ライダー』(1971年)の第84話『危うしライダー! イソギンジャガーの地獄罠』で、自らが監督して、なんかマイナーなゴダールっぽい演出をしようとした挙句に、ヘリコプター撮影をはしゃいで使い過ぎて失敗して、無残な自主映画みたいな仕上がりにしちゃった黒歴史があるんですけど、そこに匹敵する私物化ですよ! オール30分全・京極夏彦アワー!
っていうか、今「私物化」って書いちゃったけど、そもそも『ゲゲゲの鬼太郎』って、京極先生は大ファンなだけであって、原作者でも権利者でもありませんよね!? 本来、私物化していいのは、水木しげる先生ただ一人のはずですよね!?

水木 いやね、ずっと前に東映動画のプロデューサーの清水さんが言ってたんですよ。「タネに困っているんだけど、京極先生に……」と言うから、「それはいい、ぜひ頼んでごらんなさい」と。
(中略)
水木 いい考えですよと言ったんです。困っていたんですよ、東映動画さんは。(本書 対談より)

『水木しげるVS京極夏彦 ゲゲゲの鬼太郎 解体新書』 対談より

水木御大ご指名かぁああい! しかも、困ってたんかぁぁああい、東映動画(東映アニメーション)ぁああ!
いや……もう……こう……なんていうか、むしろ潔いよね?
まぁこの場合、「潔かった」のは、京極先生でも水木御大でもなく、東映アニメーションなんだけども。
もう、頼むならとことん、京極先生の好きにさせちゃえっていう、大盤振る舞いっていうか、もうこの際、せっかく今が旬のベストセラー作家が神輿に乗ってくれたんだから、とことん担いで、一話分丸々「京極夏彦アワー」にしちゃえっていう、その割り切りというか、踏ん切りというか、その辺、東映って会社は、昔から腹を括ると肝が据わるという、不思議な会社であります。

いやいや。
ここまで散々毒づいてきたけれども、いやいやどうして、この『言霊遣いの罠!』は、意外と、と言うと失礼に当たるけど、アニメ版『鬼太郎』全編の中でも、なかなか妙味に満ちた傑作に仕上がっておりますぞ?
妖怪の総大将(っていう設定は、80年代にでっち上げられたんだっけ?)ぬらりひょんの幕引きタイミングのシリーズ構成を、すっかり無視してしまったケアレスミスはあれど、実際に完成した『言霊遣いの罠!』は、しっかり『鬼太郎』であると同時に、しっかり「京極夏彦作品」として、他の小説群と並び立つクオリティに仕上がっている。
学校の怪談風の出だしから始まっておきながら、「言霊」という概念を、『京極堂シリーズ』そのままに、量子力学的哲学にリアルタイムで劇中世界と視聴者を引きずり込む(まぁ、さすがにメイン対象の小学生は置いてきぼり感は否めないんだけど)手腕は、さすがお見事というしかない。
一方では、エンターテイメント部分も忘れずに、登場する二体の妖怪も、片方は鳥山石燕『画図百器徒然袋』所以の、“瀬戸大将”なるゲストキャラが、石燕画を水木テイストに寄せたデザインで登場すると共に、序盤、人気のない学校の中を疾走する護法童子は、こちらは水木画風で新規デザイン。
ちなみに護法童子は、映画『帝都物語』(1988年)クライマックスに、Hans Rudolf Gigerのデザインで登場したことで、当時の映画ファンの話題をさらったが、その時の監督が、後の京極氏の小説の初実写映画『姑獲鳥の夏』も撮った、実相寺昭雄監督だったというのも、何かの縁を感じざるを得ない。

(H.R.ギーガーがデザインした、映画『帝都物語』に登場する護法童子)
(『ゲゲゲの鬼太郎』『言霊遣いの罠!』に登場する護法童子)

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事