しかしテロの本質が、軍事行動や破壊行為にあるのではなく、人々が平和と信じ込んでいた環境の真ん中で、ある一瞬を境にしてそれが脅かされる状況が発生することであるという、上原氏の主張が正しいことは、実際にアメリカで起きた911テロなどが証明しているのではないだろうか。
上原氏が円谷を離れて、はじめて取り組んだアニメ作品に『ドロロンえん魔くん』(1973年)という作品があったが、そのエンディングで歌われた印象的な歌の歌詞(作詞・中山千夏)は「変な感じがしませんか。あなたの観ているそのテレビ。妖怪っぽくはないですか。気をつけろ。気をつけろ。妖怪にゃテレビに似たのもいるんだよ」というものであった。
人は自分の周囲に在る者達の本質を、全て捉えた上で生きているわけではない。
何気なく共存している人が異邦人であったりするのは当然だし、ただの機械の箱だと思っていた物が、妖怪だったりすることだってあるかもしれない。
生まれながらにして、全ての時間を異邦人として過ごしてきた上原氏にとって、その事実と真理は「普通のこと」であり、その「普通のこと」を我々に突きつけ続ける事が、上原氏が選択した道だったのではないだろうか。 上原氏にとって、人が築いた文明社会は、実は大自然が生んだ怪獣達の闊歩する世界の極一部でしかなく、そしてその文明社会には、いつだって人知れず異邦人が溶け込んでいるという、とても基盤の危うい、脆い社会だったのである。