筆者の例で言えば、ネットでTwitterなどをやっていて、そこで出会う、繋がりあう人の中には、上手く言葉に出来ない違和感を感じることもある。

例えばそういったネットでの表現活動を行っていると、初対面の相手から、その人とキャッチボールをしたこともない、その覚えも経験もこちらにはないのに、いきなり「あなたの過去日記を読んで感動しました。あなたとは運命を感じます」などとメッセージを送ってこられたこともある。

また、ネット上で付き合って間もないうちに「私とあなたは親友ですね」とか「私にとってあなたは人生で一番大事な人です」とか、言ってきてしまう、言えてしまう人というのは、やはりいるものなのである。

「運命」や「親友」「人生」などという、普通に生活していたら、まずそうそう迂闊には使えないような重たい言葉を、とても簡単に使えてしまうというのは、それはやはり顔も体温も伝わらない、文字という記号だけで繋がるネットゆえの現象なのだろう。

冒頭に記した『迷走王ボーダー』の台詞ではないが、ある日突然「あなたがそんな人だとは思わなかった。あなたには裏切られた!」と、罵倒を残して勝手に立ち去っていってしまう人は、決まってそういう始まり方をした人だったりするのも、考えてみれば面白い。

リアルで会ったことがないどころか(というか、ネットで出会うのだから当たり前だ)、そこでは、ただのフォントでしかない記号の文字の羅列だけで、互いが同じレベルの「実感」を共有するのには、途方もない努力と時間が必要のはずだ。

そして自分が誰かに抱いた思い入れや実感は、その対象に届き互いに共有できて、初めて意味を持ち、現実の「関係」という概念に昇華するという真理を、意識的にスポイルしている人が闊歩しているのもネットの特徴だ。

これを読んでいるあなたが、もし今までどこでも市川大賀とコミュニケーションしたことがないのに、たった一言「こんにちは。いつも読んでます」と一言Twitterでリプを飛ばしただけで、筆者から「ようこそいらっしゃいました! あなたは私にとって誰よりも大事な人です」とコメントを返されたとしたら、きっと薄気味悪いとしか感じないのではなかろうか?

そこで、あなたをして「薄気味悪い」と感じさせる要因こそが『実感の力』であり、そしてそれは、論理的・数値的なデータで構築されるものではないからこそ、時として人は迂闊に騙されてしまい、そこで傷を負ったり辛い思いをするのである。

そんな思いをしたい人などいるわけもなく、誰だって出来ることなら、誰かに騙されたり裏切られたり、自分の純粋な想いが傷つけられることなど、起きないまま人生を過ごしたいと思うのが当たり前であろう。

その証拠に、というわけではないが、ネットでは、いかに自分が騙されないかということが、大きなテーマになっている人が多い。

中国・韓国に騙されるな、宗教、マスコミには騙されないぞ。

新聞やテレビで流れてる情報は全部嘘だ、真実の情報はネットにしかない。

そう思い込んで、ハリネズミのように武装してネットを利用している人も少なくない。

しかし、それはいわゆる「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」でしかない。

騙されないために、傷つかないために本当に必要なのは、口先の理論武装と頭でっかちの思い込みではない。

それらは、締め切った部屋の中で、一人でパソコンを叩くことで養えるが、本当に必要なことは、人と繋がり、その繋がりから逃げずに時間を積み重ね、失敗を謝り、苦痛に耐えて、自分を隠さずに、実感を与えあうことだけである。

その中で学び取った物が、ようやく経験値となって蓄積される。

たった一人の人間を相手に、騙されるかもしれない、裏切られるかもしれない中で

全力でキャッチボールを続けて、ようやく経験値が1ポイントだけゲットできるのだ。

馬鹿馬鹿しいと笑われよう、余りにも非効率的だと指摘されよう。

しかし、申し訳ないが人という生き物は、そういう方法しか最初から備えていないのだ。

スイッチを入れた格闘ゲームやシューティングゲームが、開始早々にミスをしたのでとっととリセット押してやり直しというのは、それが、人に使役するゲームという娯楽だから成立する方法論に過ぎず、対人関係にあってそれを繰り返していると、人と繋がり、実感を与え合う能力などは、永遠に育つはずもないのである。

本話に登場するザラブ星人は、地球人を「兄弟」だと言い切った。

本来生まれながらの関係である、人間同士の関係性の中では一番重たいはずの「兄弟」という言葉を、ザラブ星人はとても安易に持ち出して使った。

そしてまた、ザラブ星人は地球人を「幼い弟」とも言い切って地球人を騙した。

それはつまり、地球人が宇宙という概念においては致命的・決定的に、そこでの経験値やコミュニケーションの時間が足らないため、関係性を示す言葉「兄弟」を使うことで、容易に地球を騙しえたという、単純かつ痛烈なリアリズムで物語が構成されている。

確かに(この世界の人類もまた)、外宇宙の生命体と繋がる経験値は皆無に等しい。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事