あの日、川中島で千葉真一は何を叫んだのか

もうね、誰が生き生きしてるかっていうと、千葉真一ただ一人!
どうも、角川春樹って人は、千葉真一が生き生きしていて、夏八木勲が出演してくれれば、自社映画は必ず当たるっていうMyジンクスを抱いているドリーマーっぽい人なんだけど、やはりこの人、この頃から既に(自主規制)
とにかくこの映画のクライマックス、千葉真一が走る、飛ぶ! 馬に乗って駆け巡る! 64式小銃を乱射する! 目立つ。とにかく目立っていないと気が済まないジャパンアクションクラブ魂が炸裂!
とりあえずこの映画が、そのJAC創立10周年記念映画っていうのも兼ねてたからか、真田広之氏は当然として、高橋利道氏&栗原敏氏の「JAC 宇宙刑事顔出しアクションスター」ツートップ等も動員。真田広之には、実際にホバリングしているヘリコプターから地上へダイブを1カットでやらせるわ、乗馬しているところから、直接ジャンプして千葉真一にとびかかるところまでをも1カットでやらせるわ(メタ的に、このカットも多少ホモ成分多め)、もちろん千葉真一も、乗馬しながら左右に落ちている弓と矢を拾うまでを1カットで披露するわ、ここら辺、1カット単位で、角川春樹プロデューサーと、千葉真一・主演・アクション監督の「なにがなんでもこの映画を当たらせて、借金返さなきゃ、シャレになんねぇんだよ!」っていう気迫が、観客に伝えちゃまずい臨界点まで伝わってきて、映画の内容とは基本的に関係ない緊張感が半端なく襲ってくる。

そんな「大人の事情」を、連帯責任で背負わされた感が満載で、戦闘シーンでは、武者や足軽や忍者の姿をした、JACの皆さんが大暴れ!
死んでも死んでも、死体を踏み越えて迫ってくる武田軍(実際は千葉真一軍)に恐れをなして、戦車ごとフリーズ起こしてしまう61式戦車の一同。キューポラから、機銃撃ちまくればいいじゃないかと思いつつ、撮影本番で実際にこの「ニセ61式戦車」を操縦していた、倉石功氏演じる丸岡が「撃てぇ! 撃てば昭和に帰れるんだ!」とか叫ぶんだけど、それもそれで、既に正常な判断力を失ってる屁理屈だろとしかツッコめない。
ツッコめないけど、武田JACはガンガン責めてくる! その間隙をぬって、戦場を駆け抜ける三菱ジープと、その車上で機関銃を連射する千葉! そして映画の立体構造を縦横無尽に使った、ヘリコプターによる空襲攻撃が、バズーカや手榴弾の炸裂や爆炎と共に、戦国合戦絵巻をド派手に彩る!

コレですよ! コレコレ(『孤独のグルメ』調)こういうのが観たかったんですよ。
これがオトコノコ、プラモデル好きのジオラマ魂をかきたてられるんだよ!
おまけに、木製の対キャタピラ特攻兵器とか、燃料補給車へ向けての火矢の集中放射とか、一説にはこの映画を見て、「これはベトナム戦争のパロディだ」と語った人がいると聞くが、確かにその要素はあるのかもしれない。時代は70年代のラストを迎え、『アメリカングラフィティ』へのオマージュを軸足にしつつ、去りゆく70年代への別れの壮大な儀式としてこの映画を捉えた時、当然そこには、様々な意味で70年代に影を落としたベトナム戦争という存在を、見出すことは可能だろうし、実際の武田軍の対自衛隊作戦の多くは、原作小説のほんの短い描写で言及された

長い丸太を車輪の間に突っ込まれて擱座するトラックが二、三台あった

『戦国自衛隊』半村良

に端を発して、田辺節雄漫画版では、もっと映画版に近い形での、丸太槍特攻車両が登場していたが、それはそういったメタファーの形を借りただけであって、さすがにこの、二郎ラーメンカレーがけみたいな映画で、ベトナム戦争テーマを入れるなど、もうね、ゆで上がった伊勢海老がでかいのが一匹ありますがどうしますか?って聞かれているようなもんで、「それはいいから、もって帰って! さすがにもういらないから!」って泣いて頼むしかないっていう。

台本ではシーン147川中島 149川中島 151川中島 これだけの尺しかないが、ここまでの、偶発的メディアミックスの錯綜を、全て叶え放出せんとする勢いで、もはや斉藤光正監督置いてきぼり上等で、千葉真一魂、JACスピリッツがほとばしり、暴走し、爆走した先で、止める者無しのまま、「タイムスリップの意味」も「時間が何を目的に、自分達を戦国時代で送り込んだのか」も「過去に干渉してしまう危険性」も「同じ日本人に自衛隊員として銃を向けてしまう事への逡巡」も、最終的には「元の時代へ帰れるか」すら放棄して、ひたすら千葉伊庭は、血と戦いと敵と勝利と、自分がかっこよく目立つ映像を求めて、戦場を走り抜けるのである!

ちなみに、角川春樹の真田昌幸率いる、真田鉄砲隊へ向かって、低空ホバリングで掃射する(なぜかその時、角川春樹の名演技が、無駄に長い尺で映し出される!)ヘリコプターを操縦している清水二曹役の加納正氏は、当時空輸会社の専属のヘリコプターのパイロットで、飛行時間が10000時間を超えるという、当時の日本のヘリパイロットでも5本の指に入る人で、だから福井の丸岡城(国家指定の重要文化財)を見立てた春日山城のシーンでは、天守閣手前数mっていう、重要文化財相手では、絶対やっちゃいけないレベルの近距離ホバリングでの、景虎救出劇(これは原作にもあった)が再現できたのだけど、川中島の戦いでも、超低空ホバリングで、戦国武具を装備したJACの皆さんが、刀を手に切りかかったり、飛び乗ろうとして失敗したりする、あぁこりゃ毎度のことながら、人権とか労災とか無縁な世界の撮影なんだなぁというシーンがあった上で、真田広之がしっかり飛び乗って、ヘリの自衛隊員二名を暗殺して「鉄の鳥」を墜とすという流れがあるんだけど、元々パイロットの加納さんは役者でもなんでもなく、あまりにヘリの操縦が上手いので、リアルな合成無しのヘリコプター画面入れ撮影ができるから、そのまま清水役に抜擢されただけなもんだから、今まさに、真田広之がヘリに侵入してきて、さぁどうなる、っていうサスペンス描写がピーク!

まだアクションスターアイドルだった頃の真田広之

その瞬間に、コックピットから振り返って、「大西、着陸するぞ。大西? どうしたんだ大西?」という、全編を通じて唯一の台詞らしい台詞を口にするのだが、これがもう、僕が仮に石原さとみであれば、抱かれたくなるレベルの、素敵な素人棒読み台詞で、サスペンス感が台無しで、その上、続いて(これは流石に着陸したまま撮影したのだろうけど)「ヘリの窓からぐったりしている、口端から血を流している清水の死に顔」という、これもどう見ても観るに堪えない素人演技顔がアップで写されて、最終的には、クロマキー合成だか、ブルースクリーンなんだか、リアプロジェクションなんだか、どれでもいいから、せめてもうちょっとマシな、同時期の『ウルトラマン80』(1980年)レベルでもいいので、中野稔にちゃんと仕事させてくださいよ的な「ものすごい安っぽい合成画面丸出し」で「あからさまにミニチュアのヘリコプターが墜落して爆発する特撮」と「画面の手前で、オーバーアクションで、驚いたり、避難しようとしたりする千葉真一一行」とが、一体になった画面を見せられて「これ、もしかしたら特撮は矢島信男か?」と、映画館で計12回叫んでしまったのも、今となっては良い思い出(……なわきゃねぇだろ!)

もう、とにかく、にしきのあきら演じる「演習初日に、隊を脱走して、恋人(岡田奈々)と山の駅で駆け落ちの約束してたんだから、タイムスリップしたって知るもんか。俺は約束の駅まで行くんだ」って、野山を駆け巡って、違う物が脳内を駆け巡った挙句にとうとう頭がイッちゃった隊員とか、中康次氏演じる「結局戦国時代へ来ても、見知らぬ美女(小野みゆき)を見つけて追いかけるうちに、全力で走らなければいけなくなり、そのまま捕まえた女を押し倒す(そこまで捕まるまで逃げていられた小野みゆきの方がアスリートクラスじゃねぇか)」とか。とかく女絡みの話でも、ウザ重たい話がてんこ盛りで、この「現状、伊勢海老を強引に乗せちゃったラーメン二郎カレーがけみたいな状態でーっす」という尺と物量に「タイムスリップしてしまった21人全員の、青春物語を入れる」っていう! お前、結局最後はもう一回カレーをぶっかけるのかよ! 結局カレーかよ! どうしてもカレーにしたいのかよ! みたいな企画意図が強引にねじ込まれ、それこそ上で書いた二人とか、そのオマケの鈴木ヒロミツとかはまだいいけれど、『正義のシンボル コンドールマン』(1975年)で、かつて子ども達のヒーローを演じた佐藤仁哉氏演じる関二士などは、冒頭、パンツ一丁で現れた後は、自衛隊の制服に着替えてタイムスリップしたものの、すぐさま飛んできた弓矢で見事に首を撃ち抜かれ、「冗談だろ……?冗談」って一言だけ残して死んでいく、そんな自白どおり冗談みたいな登場人物の、どこから青春をどう感じろというのか、風よ、雲よ、心あれば教えてくれるもんなら教えやがれ!

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