話は戻るが、結局石原プロのジャイアン人事に振り回された形の東宝・日テレ『刑事貴族』(1990年)は、そのまま素直に看板を下ろすのもプライドが許さなかったのであろうか、なんと舘ひろしの主役ポジションを、他の俳優・キャラに挿げ替えて継続し、更に改めて『刑事貴族2』(1991年)として、再スタートを仕切りなおしたのである。

主軸に水谷豊を据えた『刑事貴族2』

 思えば、70年代を熱くさせた刑事ドラマの歴史は、『太陽にほえろ!』でのショーケン殉職から加速したといっても過言ではなく、そしてその『太陽にほえろ!』は、当初はその企画における真の主人公は萩原健一であり、彼と社会、上の世代(太陽族)との衝突や融和を描くのが、そもそもの『太陽にほえろ!』のテーマであった。
 しかし、放映開始後一年を過ぎようとした頃から、ショーケンが役を降りたがりだし、どうしても辞めるといって聞かなくなったので、仕方なく殉職という形をとって消えさせ、その後釜を、新人俳優だった松田優作演じるジーパンが埋めることであらためて『太陽にほえろ!』は、広く国民が認知しているような「登場刑事全員が持ち回りで主人公を勤める、群像刑事ドラマ」へと変化した経緯があったのだ。
 思えばそれも、東宝・日本テレビライン製作で起きた、ある種のアクシデント対応が、功を奏した特例であったわけだが、それと同じことが四半世紀の時を経て、再び起きてしまったのが『刑事貴族2』であった。

 そこで「二代目刑事貴族」として主演に選ばれたのが(実際は、郷ひろみ主演期間を経ているので三代目)誰あろう水谷豊
 かつて『傷だらけの天使』(1974年)で、ショーケンの脇をうろつくだけのチンピラで国民に知れ渡り、その後『熱中時代』(1978年)『熱中時代・刑事編』(1979年)で大ブレイクするまでは、常にショーケンや松田優作の脇役として、ギラギラ目だけを輝かせ続けていた水谷豊が、そのショーケンや優作が巻き起こした(or巻き込まれた)のと同じ形のトラブルで、今度は『刑事貴族2』の主役の座に収まったのだ。
 この時期、既に優作は亡くなり、ショーケンも『豆腐屋直次郎の裏の顔』(1990年)ぐらいで、往年の人気ぶりには及ばない時代を迎えていた(ショーケンが華麗にスクリーンに復活を果たした深作欣二監督・丸山昇一脚本の映画『いつかギラギラする日』(1992年)は、ちょうど水谷主演の『刑事貴族3』(1992年)の放映が終盤に差し掛かった頃の公開だった)。

 ショーケンも優作もいなくなったテレビ刑事ドラマの舞台に残った水谷豊は、まるで「真に勝ったのは、野盗でも侍でもなく農民だった」という、黒澤明監督の『七人の侍』(1954年)のラストの台詞のようでもあり、彼を招き寄せたのが、ショーケンや優作を生んだのと同じトラブルだったという奇遇さは、当時を知る筆者からすると、感慨深いものを感じさせてくれる。

最後に栄光をつかんだのは、水谷豊だったのかもしれない

 そんな水谷が演じた「刑事の貴族」それはむしろ、舘ひろし版初代がかすむほどに、優雅でユーモアに溢れ、優しく強い、まさに視聴者がタイトルから想像する「刑事の貴族」そのものの体現であった。
 悪いが舘ひろしでは、どうにもこうにも「バックに権威を背負ったナルシスト中年」にしか見えなかったのも今なら言える本音。
 そのスタッフは、文芸陣は大川俊道、尾西兼一、金子裕他で、演出が、原隆仁、村田忍、鈴木一平といったラインナップで、ことさら舘ひろし版と何か人事的に変革があったとは言い切れない。

 しかし、水谷が演じるユーモラスで品がある「本城慎太郎」の口から溢れる「あラッキィラッキィ、ラッキイ!」「あぁあ、お恥ずかしいいったらありゃしない!」等々の、水谷ならではの軽妙さの台詞回しは健在で、ドラマを常に、一定のトーンで展開させるキーアイテムの役を自らこなす機能性を見せた。  そんな『刑事貴族』シリーズラストシーズンの『刑事貴族3』最終回『ファイナル・バトル(脚本・尾西兼一 監督・原隆仁)』では、水谷版『刑事貴族』初回で逮捕したはずの天祭揚子が復讐脱獄。その天祭に延々と水谷が、ライフルで狙われ続ける姿を描き続けた。


 そこには、ショーケンが『傷天』で見せた「積んでる感」も、優作が『俺勲』で見せたやるせなさもない。
 『西部警察』の武力鎮圧主義も、長坂『特捜最前線』の執念もない。丸山『あぶない刑事』の遊戯感覚ともまた違った、独特の空気の中で淡々と、テロリストの襲撃と、それを受けかわす水谷のキャラがあるだけ。
「お前まだ(ナイフを)持ってんのかよぉ?」「何本持っていんだよお前ぇ」と、例のトーンで軽口を叩きながら、そして誘拐犯からの電話を待ち受けて走り、電話を取るたびに全力で「ハイ! ホンジョー!」と受け答える、その描写の蓄積は、水谷の役者人生の中で、新たな転機を産むことになる。

次回は犯罪・刑事ドラマの40年を一気に駆け抜ける!(70年代をナメるなよ)』Part13

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