――ところで、「そういう話の流れ」でお聞きしますが、富野さんって(左右)どっちなんですか?

出渕 富野さんは保守じゃないですかね。

――富野監督が保守的というのは、保守政党(自民党)を支持している、といった類の意味ではなく、人間の本質的文化論や人のありようについて、保守的である、という解釈でよろしいでしょうか

出渕 本人じゃないからわからないけど、偏った右ではないんじゃないかな。あの世代の人は時代性もあって左派の人は多いですけどね。

――そうですね。安彦さんは『虹色のトロツキー』とか描いてる時点で。

出渕 うちの師匠(高山文彦氏)は左です。でもあの人(高山氏)は共産党やスターリン主義は大嫌い(笑) でも、ソ連の共産主義は嫌いだったんだけれども、ベルリンの壁が崩壊して、レーニン像が倒されるのを見て「渕っちゃん! 俺はソ連の共産主義は嫌いだったけど、でもあれを見て涙が出てきちゃってさ!」って。おじさん、分かった、気持ちは分かったって(笑)

――だから富野さん、『ポケ戦』嫌いなんだ(笑)

出渕 いや、嫌いではないと思うんですけどね。『月刊ニュータイプ』角川書店)で座談会もやったんですけど、認めてもくれましたけどね。

――富野さんの談話を追っていくと、まるで宣伝文句のように「『ポケットの中の戦争』は、僕がやろうとしてもできない、本来ガンダムとはこうあるべきだったことを教えてくれた作品だ」みたいな談話もあれば、2015年の『夜のGレコ研究会 富野由悠季編』では、「他人のガンダムは全て、ORIGINも含めてです、クソです」とか暴言も吐いたりしてます。また活字ではこのような発言もされています。

――「0080」「0083」「08小隊」などは、どのように?
富野:アナザーガンダム同様、観ていません。先に言った前作のコピーを恐れるというのと同じで、僕は学者になる気も全くないんです。だから宇宙世紀世界の認識にも調査にも全く欲求がない。僕は、物を作る事にしか関心がない人間なんです。

スーパーロボットマガジンvol.8 世界ロボット者列伝第8回 富野監督が話題の新作『キングゲイナー』を語る

出渕 先ほど言った座談会では、僕と、高山さんと、山賀(博之氏)くんと富野さんでやったんですけど、いくつかここは、って箇所を富野さんに指摘されて、高山さんは「(富野さんは)流石にちゃんと見てる」って感心してましたね。それで、ちょうどその時に、編集の人がきて「実は、手塚治虫さんが亡くなりました」って言ったんです。みんなで「えぇーっ!」ってなって。もちろん座談会が終わった後なんですけど。だからその時期ですね。あと、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』(1991年)今西(隆志)さんは保守ですね。でも、今西さんとは昔から仲が良かったんですよ。さっきも語ったように、決して(右と左は)対立構図じゃないですから。

――あたかも対立構図のように見えるようになってしまったのは、やはりネットの弊害でしょうか。

出渕 ネットが全て悪いわけじゃないですが、まぁ、責任を取らない言説が解き放たれ可視化されてしまうようにはなりましたね。それがまた快感だったりするのかもしれないからねえ。匿名性もあったりしますし。

――僕らの思春期時代までは、「素人の書いた文章が活字になる」こと自体、すごくハードルが高かったじゃないですか。雑誌の投稿欄に載るのさえも、編集者の審美眼にかなわなければいけなかった。それが今のネットって一転して、携帯かパソコンがあれば次の瞬間誰しもが、全世界に向けて活字を放てる時代になっているんですよね。

出渕 それで、自分がどこの誰かも分からない状態で、言い逃げが出来ちゃうのは困ったものです。で、またそこで、自分が気持ちいいと思った相手とだけ慣れあって、反対意見には耳をふさいでしまう傾向はあるかな。本当は耳の痛いことこそ価値あるものだったりするんだけど……。だから「自由は不自由」ってことですかね。

――自分より上の世代の方が、今もなお現役でそういった姿勢でご活躍されているのは、出渕さんの世代に憧れてやってきた僕等としては、心強い限りです。

出渕 上の世代も下の世代もないですよ。上を見ても下を見てもキリはないし。上の世代が全員すごいのかというと、決してそうではないし。すごい人はどの世代にもいらっしゃるし。僕、自分より下の世代の人でも「あ、こいつすごいなぁ」と思えば、自分の中に「もったいないお化け」が出てきて、その人に向いてるところとかあれば紹介しちゃったりしてね。若いころからそういう癖があって(笑)

――僕はこの歳まで、幸か不幸か子どもを作らずやってきたんですけれど、今も出渕さんとお話ししてきて思うのは、今のこうした社会、時代に、果たしてちゃんとした「育てる」が可能なのだろうかとさえも思ったりするわけで、実際にお子さんを育てている人達を尊敬するんです。

出渕 確かに、すごいと思います。もう少し、そういう人達のために、なんとかしてよ、政府、って思います(笑) 「これから死んでいく人の為に」っていう社会保障もセーフティネットも、そりゃ大事かもしれないけれど、少子化がぁーとか言ってるなら、そこで安心して子どもを育てて、教育していけるようなシステムを整備すべきだし、負担を軽くするべきでしょう。

――子どもを産めば産むほど苦しくなる社会って、少子化対策する気ないだろって思いますものね。

出渕 思いますよね、本当にね。

――そんな、自由と不自由が混在している時代の先で、出渕さんが今後、夢というか、いつかはやってみたいと思われる仕事というのはありますか。

出渕 『スーパーロボット レッドバロン』のリメイクとか興味はありますね。あ、もう『ブレイブストーム』(2017年)があるから駄目か(笑) しかし、振り返ると富野さんとイデオロギーに関して訊かれる事が多いインタヴューでしたね(笑)

『スーパーロボット レッドバロン』より

(2019年2月1日 下北沢ヴォルール・ドゥ・フルールにて収録)

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