ぶっちゃけ言えば「そろそろゲームライターから足を洗いたいな」と思っていたのも事実。
ちょうど当時、ゲームハードの戦争が、スーパーファミコンVSPCエンジンVSメガドライブの三つ巴から、プレイステーションVSセガサターンの一騎打ち状態になってきていて(任天堂64を発表する直前期)、ハードの性能が上がるたびに、ゲームライターがこなさなければいけないタスクも増えてきていて、ちょっとコスパが悪いなぁと思っていたのだ。
そう、コスパが悪い。
M橋氏ではないが、他のゲーム雑誌で新作レビューの仕事を任されそうになると「締め切りまで10日間で。これ、シナリオ分岐多いから、全網羅するのにだいたい300時間で」とかの、ブラック企業というよりは、算数のレベルでいろいろ間違っている注文も少なくなかった(そこをまた、なんとかクリアしちゃうからこそ、次もそういう無茶ぶり仕事が回ってくる悪循環)。

なので、別冊宝島ということもあって、ゲームの専門誌ではないからこそ、好き勝手に日記風に(もちろん書いてる日常はフィクションだが)資料も見ずに、改めてゲームのチェックすらせずに(もともとスパロボは好きでやりこんでいたので)、見開き2ページ分の原稿を、ささっと書いて納稿した。

当時掲載された、見開き2ページだけのレビュー原稿

他のライターさん達がどう攻めるかは知らねど、ちょっとこんな変化球もいいよね、程度の自己採点65点原稿だった。
そして、M橋氏が宝島社で徹夜したりしつつ(笑)僕はもう既に「次の仕事」にとりかかっていった先で、別冊宝島『このゲームがすごい!プレイステーション編』は発売された。
僕は今もそうだが基本的に、自分が書いた原稿が載った雑誌を、あまり手元に置いて読み返すという癖がない人なので、すっかりその仕事のことは忘れ去った。

何か月か経った。
僕の部屋の電話が鳴り、出てみると別冊宝島のM橋氏だった。
「いやぁ! よかったですよ、前回の原稿! 読者人気も高くてこっちでも評判が高いんです」
……あ、そうなんだ。そりゃよかった。うん、がんばった仕事を良かったと褒められるのは素直に嬉しい。で、今日はなんの用なんだろう?
「そこで実は、大河さんに折り入って頼みたい仕事がありましてね」
ほうほう。
「電話じゃなんですから、こっちにきて話しませんか?」
当時僕は、大型バイクを乗り回していて、だから当時、まだネットもメールも家庭用FAXもなかった時代に「バイク便」という、バイクで素早く重要書類や契約書などを届ける仕事(今で言えばUber Eats的な感じで)が流行っていたのだが、僕は僕自身がバイクで24時間どこへでも駆け付けられる利便性も売りにしていた「自分バイク便ライター」だったので、この手のお誘いにはすぐ乗っかるという事業方針で営業をしていた(笑)

「どうもどうも、大河さん。わざわざすみません!」
別冊宝島編集部に到着すると、M橋氏が悪い予感を抱かせるような微笑みで迎えてくれた。
打ち合わせの卓に座ると、M橋氏から、如何に前回の原稿での、僕のスパロボチョイスが的を射ていたか。ファンのツボを突いていたかを褒められる。
こちとら、既に半分忘れかけてた話なので、あははと苦笑しながら、褒められて悪い気はしない程度で聞いていた。
「そこでですね」M橋氏がコーヒーカップを置きながら僕の目を見てニヤリと笑った(ような気がした)。「大河さん! あなたは今日からスパロボマスターです!

今これを読んでいる方も、何を僕が言われたのかが分からないと思うが、その時は言われた僕が完全に理解不能だった。
目の前のこの人は、いったい何を口走ってるんだとさえ思った。
ここは雑誌の編集部で、お互い編集長とライターの会話ではないのか?
何度も我が耳を疑った。
しかし、その先では、もっと強烈な指令が待っていたのである。

次回「市川大河仕事歴 映像文章編Part6 ゲームライター・中「すまじきものはフリーライター」」

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