前回は「市川大河仕事歴 出演仕事編Part2 『東映ビデオフェスティバル』」
時期としては前回の東映ビデオフェスティバルの後だろうか。
助監督仕事で奔走していた時期の話。
皆さんは「内トラ」という業界用語をご存じであろうか?
要するに「内」部スタッフのエキス「トラ」の略であり、エキストラはそもそも事前の打ち合わせに沿って、製作部がエキストラのプロダクションに人数や服装の注文を出して、撮影当日は演出部が捌く(演技を付ける)ものなのだが、内トラの場合は、その場での監督の思い付きや、用意したエキストラの数では足りなかったりした場合、急遽手が空いてるスタッフが出演し、その場をなんとかやり過ごすという、この業界の習わしの一つなのだが。
「その日」も、僕はいつもと同じく、前日に平増氏から「明日は単発ドラマの現場だ。横浜の氷川丸で船内のロケを行うんで、トラを結構つかうという話で、助監督のヘルプが必要なようだ。明日朝6時に新宿スバルビル前集合でよろしく頼む」という「指令」を受けて、はいはい、承知いたしましたとばかりに、翌日新宿スバルビル前でロケバスに乗り込んで、横浜氷川丸の現場へ向かった。
現場は一日限りなので、台本は渡されたが、そこには「女優競演サスペンス『裕次郎が死んだ日』」とタイトルが書かれており、しかも(仮)のマークがかかれていた。細かいスタッフ表などはチェックせずに、すぐさま初対面のチーフ助監督の指示に従う。
設定としては、横浜をふらりと訪れた樋口可南子と、会社が倒産して全てを失った細川俊之が、豪華客船(氷川丸)に乗りながら別れた嫁との娘に出会い、ひと悶着あるというシーン。
カットが変わるたびに、僕はちゃっちゃとトラを捌いていく。
あなたとあなたはカップルで、ここで海を眺めていて下さい、とか、あなたは一人旅の最中で、物思いにふけっていてください、とかトラに次々指示を出す。