(株)ガジェットリンク代表・平松広和氏をお迎えして語って頂く今回は、今の声優界に切り込む話題で「平松広和インタビュー・3『巨人の星』と『喩え話』と」をお送りします!
前回は「平松広和インタビュー・2『レッドバロン』とチェーホフと」
――前回のチェーホフの話とかを伺って思ったのですが。僕も演劇青年だった思春期がありまして、寺山修司とか別役実とか野田秀樹に憧れてた時代があるんですけれど、今、平松さんがガジェットリンクという会社を興して、新たな時代に新たな声優たちを送り出そうとした時、多分今の若い人は、僕や平松さんよりももっと、ロシア文学とか新劇ってものに興味や知識が疎いんじゃないかと思うんです。そういう中で、声優さんを目指す人たちに、平松さんはどう向き合っておられますか。
平松 でも、やっぱり。僕は今言われた流れの中で、演技を学んできたっていうのがあるんで、自分が演技を教える際には、その流れでしか教えられないんですよね。見せ方としては、いろいろ変わってきてはいるんだけれど、でも、声優はアーティストではなくて、僕がよく好きで使ってる「アルチザン(仏語で職人を意味する artisan)」っていう呼び方があるんですけど。「役者の中の、ある一部分(声)に特化した職人なんだよ」っていうのが声優っていうふうに考えているので、だから、基本は「演技全般をやれる」ですよね。で演技全般を理解するんだったら、映像よりも、舞台という「生のもの」を演った方がいい。ただ、それ(舞台を)やったから上手くなるということではなくて、やり方をきちんと考えてやらないと、まったく出口が違うものなので、基本は同じなんだけど、出口が違うっていうことは意識してやらないといけないんだと。いろんな見え方はあるんだけれども、声優というのは俳優なんだから、演技をまずできた上で、いろんなことがやれる方がいいんじゃないかと思っています。演技ができるのは当然でこんなこともできるんですっていう風にならないと、声優としての価値って、そんなに高まって行かないんじゃないかなっていうふうに考えて、一応教えてはいるつもりなんですけどね。でも、やっぱり、若い子には歌とかステージとかが、演技よりも華やかに見えるんですよね。そうすると僕なんか、古い人間だから、思わず喩えで言いそうになって飲み込むのが、『巨人の星』(1966年)で、星飛雄馬が入団する時、速水譲次って男と競い合うシーンなんです。速水譲次っていう奴は、パフォーマンスが上手いから、パッと見が凄いから、パーっとデビューして(星とは)同期なんだけど、速水が華やかで、飛雄馬が取り残されて、悶々とするっていう、そういうのを思い出すんです。それを思わず言いそうになるんだけれども、こんなの(若い人に)言ったって、通用しねぇなと(笑)。