前回は「岡本麻弥アクトレスインタビュー・5『岡本麻弥とアメリカ修行と「品がある演技とは」と』」

今や女性声優の大御所にして常にトップを走る表現者、岡本麻弥さんへのインタビュー第6回。今回は『岡本麻弥アクトレスインタビュー・6『岡本麻弥と劇場版「Zガンダム」と「再びのエマ・シーン」と』です。

――これは私見なのですが、僕は今の岡本さんの御話を聞いて、なぜ岡本さんが10代にして、『機動戦士Zガンダム』(1985年)のエマ・シーン役に選ばれたのか分かる気がします。もともと富野由悠季監督にとって「終わらせたはずのガンダムの続編を作る」というのは、非常に敗北的でありましたし、これは引用になりますが、富野由悠季監督は、本編の裏テーマとして「戦争(=ロボット漫画)が人を狂わせる」を抱いていたのだと思うのですよ。

テレビ版の「Ζガンダム」は、当時の経営者やビジネスだけが出来ればいいと思ってる大人たちへのあてつけの作品なんです。

それでも次もガンダムで何としてもやってくれないと困ると言われて、僕にすれば、ガンダムしか創らせないのねっていう思いもあって、「その代わり恨みつらみぶつけるよ」って言ったら、関係者はそれでもいいと言うんですよね。子供向け玩具を作ってマーケットを広げましょうなんて条件、一切なかった。つまり、アニメをなめていたので、アニメでここまで出来るという物語、フィクションをここまで創れるんだよというのを、お前らにとって正義の味方かもしれないキャラを狂わせてみせるって、そういう創り方をしたんです。とはいえ、3話目ぐらいまではそれを匂わせるわけにもいかないから、すごく生真面目に巨大ロボット物を創りましたね。

富野由悠季監督 月刊スピリッツ 11年1月号 富野インタビュー これからの神話を創るために

そうなった時に、作劇では最後みんな狂っていく。主人公のカミーユだけではなく、散っていくキャラ達もみんなどこかで狂気に飲み込まれていった。その中で、岡本さんが演じたエマ・シーンというキャラが、一番ピュアだったんですよね。『Zガンダム』ではヒロイン的な役回りのキャラは複数出てくるけれども、フォウは鮮烈的だったけれども瞬間的な刹那でしかなかった。ファは幼馴染だし、レコアは敵に回った。そう考えていった中で、戦争という狂気の中で最後までピュアな存在であったのがエマ中尉であり、その素材となる声優さんに一番必要だったのが、今岡本さんが仰った「品」ではなかったかと思い立ったのです。

岡本 恐縮です(笑)中にいると分からないんですよね。でも富野監督はきっと物事の奥にある本質を見ているんじゃないかと思うことはあります。劇場版(『機動戦士Ζガンダム A New Translation』三部作 2005 年~2006 年)になった時に、一度(制作発表前に)お食事をしているんです。声をかけて頂いてお食事に行ったら「どうしてアメリカに行っていたのか」から始まって、そういう自分の経験や想いを話して。「なんで呼ばれたんだろう?」って不思議だったんですが、最後の方で(富野監督が)「うん。これならいけるね」って仰ったんですよ。つまり、そのお食事って、劇場版でエマ・シーンに、私を起用するかしないかのオーディションだったらしいんです(笑) 富野さんも確認したかったんだと思います。私が、役者として人間として、今、腐ってるか、腐ってないか、それを確認されたんじゃないかなと思います。エマに限って、ですよ。他の声優さん達の個々を選んだ基準は私には全く分からないですから。きっと色んなファクターがあったんでしょう。テレビ版のあの頃の私は、17 歳の、海のものとも山のものともつかない小娘だった。しかも勝田の教室で、当時は一つだけしかないテレビとマイクで、ちゃんとしたアテレコのレッスンもしたことない。マイクのどっち側に立てばいいのかもよく分からない。そんな私を、出来るかどうかも分からない重要なポジションに抜擢してくださったのが富野監督で、そして年月を経て劇場版にも起用して頂けたのは素直に嬉しかったですね。

――その、富野監督ですら、劇場版新訳Zガンダムでは、決してキャスティングの権利の全てを握っていたわけではないと思う訳です。あの映画でのキャスト交代に関しては、諸説が入り混じって語られていますが、少なくとも岡本麻弥さんがエマ・シーンを再び演じるという部分については、今伺った、監督直々のオーディションがあって、富野監督が「今現在の岡本麻弥さんならいける」と確信したということですね。

岡本 でもそれならそれで、最初から言ってくれよとは思いましたね(笑) だってなんで呼ばれたのか分からないから、何を答えれば正解なのかも分からないじゃないですか。あ、でも先に聞いていたらいたで緊張しちゃうか……。

イラストレーション・青ビト氏

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