僕が多分、漫画ファンとして最初で最後、恋心を抱いたのが、御厨さと美先生の名作『裂けた旅券』のヒロインマレッタだ。僕は「ひょっとすると」と思うのだが、Luc Bessonって『レオン』(1994年 原題:The Professional)『ニキータ』(1990年 原題:Nikita)を撮る前に、この漫画読んでたりしないかねぇ?

いや、むしろ『裂けた旅券』という漫画は、1980年から3年間、小学館『ビッグコミックオリジナル』に連載されていた、いわゆる東西冷戦を舞台にしたスパイジャンルをも含んだアクション漫画で、小学館のビッグコミック系列で言う“その系列”としては、王道の『ゴルゴ13』のバリエーションであり、後の名作漫画『MASTERキートン』へと繋がる系譜の典型的な例ではあるのだけれども。

代替テキスト
『裂けた旅券』

漫画としては、当初は日本人中年主人公が、ヨーロッパの共産国家、フランスに定住して、旅行ガイドなどをしつつも、裏社会でも活躍するという趣向だったのだが、単行本2巻『ブローニュの森』で初登場した、13歳の少女・マレッタがレギュラー化してきた辺りから、俄然独自の漫画色を打ち出し、確かに毎回、きな臭くも重みのある、東西冷戦を背景にした悲劇が描かれるものの、明るく自由奔放で、元気でシャイで一本気なフランス娘・マレッタが物語の中心になっていくにつれ、そこでは「全くイデーも価値観も、世代も年齢も、言語も違う男女が、愛し合うというワンクッションだけで、通常よりも血なまぐさい“日常”を、助け合いながら生きていけるのか」への問いかけに変化していき、それは同時代の竹宮恵子女史の『私を月まで連れてって!』にも言えるのだが、「歳の差カップル漫画」はこの時期、確実に流行の“ロリコンブーム”の余波を受けながらも、むしろまっとうに、普遍的な「男女の愛」を描く題材としては、とりわけ使い勝手の良いガジェットだったのかもしれない。

代替テキスト
『裂けた旅券』マレッタ

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