『よつばと!』は、現状の日本漫画界で、非萌え系で抜群のクオリティと知名度と完成度を誇っていることで知られている「日常系」漫画である。
作者のあずまきよひこ氏は、決してオタク層に媚びることなく、しかしそのツボを押さえた作風のさじ加減が絶妙で、その名を一気にメジャー化させた、女子高生集団日常系漫画『あずまんが大王』でも、決してオタクの妄想的な女子高生像に引きこもらずに、しかしオタクのツボを押さえる「ちよちゃん」「おーさか」等のキャラを描き分けて、漫画家としてブレイクした経歴を持つ。

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また、その頃から、装丁・デザイナーの里見英樹氏とコンビを組んで仕事をすることが多くなり、近年のあずま氏の表現の、ビジュアル部分に関しては、里見氏がその半分を担っているといっても過言ではない(決して里見氏が、漫画本体に手を加えているという構造ではない)。

作品自体は、一言で言ってしまえば、未就学児童年齢の少女「よつば」が体感していく、何気ない日常のクロッキーと描写。
主な登場人物も、主人公・よつばの行動範囲の中に納まる範囲で限定されており、よつばと同居する、たった一人の家族の「とーちゃん」と、そのとーちゃんの学生時代からの友人が二名。後はとーちゃんとよつばが第一話で引っ越してきた時に顔を合わせた、隣家「綾瀬家」の、三姉妹と両親ぐらいのものである(サブレギュラー的登場人物は、一応増えていく)。
作劇も、何かこれといった大事件があるわけでもなく、非日常的、SF・ファンタジー要素があるわけでもない。
むしろ、根幹設定に「どうやら、よつばはとーちゃんが外国で拾ってきた孤児であり、実母の生死さえ不明であり、とーちゃんとよつばは実の父子ではない」という要素がある程度で、それすら「何もない日常」の中では、何か劇的な展開を生むフックとして存在しているわけでもなく、現状ではこの漫画を、他の日常系漫画と差別化する背景設定としてしか機能していないという程度。
しかし逆を言えば、何も非日常的な出来事が起きるわけでもなく、キャラ萌えに(一切その要素がないとは言わないが)基本、頼らずに、リアルで緻密なディティール描写と、その範囲で起きる出来事を、幼児目線での規模の大きさと感動性で、単行本10巻を超えて、全くテンションもクオリティも落ちず、続いていること自体が、あずま氏の非凡的な才能を、端的に表している。

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その描写の丹念さは、毎回のストーリー作りにも表れていて、当初から『よつばと!』は、第一話が夏休みの初めから始まり(それぞれが学生である隣家の綾瀬三姉妹を、初動の段階で、適度に頻繁に登場させるための時期設定だったと解釈できる)、その一話単位の中では、決して数日の時間経過をまたぐことはせずに、じっくりと、一話一日(キャンプや気球大会など、相応のイベント編では、一日を描くのに数話を要するが)のペースで、じりじりと話数が進んでいった。
これは、漫画が陥る「サザエさん時空問題」を回避する手段と共に、我々大人が確固たる実感として持っている「大人になればなるほど、一日や一年が短く感じるようになった。子どもの頃はもっともっと、一年どころか、一日でさえも長かった気がする」を、漫画というメディアで、読者がページを目で追いながらめくるという行為の速度誘導で、再現しているのだとも言えよう。
それゆえか、本作は連載開始から数十回続いても夏休みが終わらないので、先走った察しの良さを自慢するタイプの漫画オタクからは「『よつばと!』の作中世界は、このままずっと『夏』なんだ。この漫画は『終わらない夏』をテーマにしているんだ」という早合点をされてしまったことでも顕著である。
実際は、そこまで深遠なテーマがあるわけでもなく、物語が進行していけば、自然と秋がやってきて、季節も移ろうのではあるが、そこでもやはり、あずまクオリティは健在で、街の(主に自然的な)背景や、登場人物の服装などを、一日単位で季節の変化に応じて描き分けていて、各登場人物に設定された「人格」のきめ細やかさも併せて、非常にリアルと面白さを兼ね備えた、健全でストレートなエンターテイメントとして、この漫画は成立している。

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