前回は『『犯罪・刑事ドラマの40年を一気に駆け抜ける!(70年代をナメるなよ)』Part7』
またTBSは単独の局ドラマとして、まだまだ「マンザイブームのビートたけし」だった頃の北野武を担ぎ出し、コメディ刑事ドラマ『刑事ヨロシク』(1982年)を製作してみせた。
このドラマは、スタジオ撮影ビデオ撮りのドラマなので軽く見られがちだが、たけしとコンビを組むことになる女性刑事が岸本加世子であることが象徴するように、実はこのドラマのプロデュースとメイン演出は、天下の久世光彦であった。
久世といえば『時間ですよ』(1970年~1974年)『寺内貫太郎一家』(1974年)『悪魔のようなあいつ』(1975年)『ムー一族』(1978年)等々の、TBS黄金期の、珠玉の名作ドラマ群を生み出したことで知られる、今野勉と並ぶ「TBS伝説の男」である。
脚本はこちらもユニオン映画で『俺たちの旅』(1975年)、東宝で『俺たちの朝』(1976年)を書いて、大映テレビで『秘密のデカちゃん』(1981年)などを書いてきた畑嶺明と、『ムー一族』などを書きながら、劇団黒テントの劇作・演出家を勤めてきた山元清多。
設定としては、東京都下の新興住宅地帯を舞台に、たけしをはじめとした「警察署内の落ちこぼれ」が集められ、少年特捜班という部署が設立され、さらに彼らは「本当の落ちこぼれ」少年達を相手に、毎回大騒ぎを繰り返すと言う趣向。
つまりこのドラマは、あくまでも「刑事」とタイトルに謳っているのだが、そのテーマや展開は、実は学園教師ドラマに近いのである。
学園青春ドラマを多く手がけてきた、畑嶺明の起用は適格だっただろう。
そしてさすが久世人脈とでもいうべきか、俳優陣はとことん豪華。梅宮辰夫、及川ヒロオ、安岡力也、由利徹らが脇を固めて、川上麻衣子、菅井きん、風祭ゆき、秋野暢子、山田邦子と、女性陣もバラエティに飛んだメンバーで製作された。
たけしがそのキャラまんまで、ドラマ内で暴力行為や暴言を吐くと、そこへお約束の「この作品はフィクションであり」というテロップが流れる。コントやバラエティ方向へ、ついつい流れやすくなりがちな作風に見えて、畑が常に根底に持ち込んだのは、ユニオン映画での学園ドラマから一貫して描かれる「共同体から排斥される『異物』が抱える不条理」であった。
同時にこのドラマは当時、トイレ関係のCMで「お尻だって洗ってほしい」というフレーズで大ブレイクした「元祖・不思議根暗系女性 戸川純」をフィーチャリングした、初のドラマである。
ここから先は、まさに刑事ドラマ戦国時代の群雄割拠(というか玉石混合状態)なので、ざざっと、企画や設定や人事を、流して書いて、その流れを追っていく展開にしよう。
『探偵物語』(1979年)の後番組だった『大激闘 マッドポリス'80』(1980年)なんて、脚本陣こそ、永原秀一、柏原寛司、峯尾基三といった、後に『あぶない刑事』(1986年)や『ベイシティ刑事』(1987年)『刑事貴族』(1990年)80年代以降の『ルパン三世シリーズ』へ流れる面子だけど(最初の『ルパン三世』(1971年)で『さらば愛しき魔女』などの、大傑作脚本を手がけていた宮田雪なんかも、こっそり混じってはいる)肝心の演出陣が、「あの」『不良番長』シリーズや「ライフルを撃たず、棍棒として振り回す千葉真一のゴルゴ13」が暴れまくった『ゴルゴ13 九龍の首』(1977年)の野田幸男や、東映京都の『女番長シリーズ』や『好色元禄(秘)物語』(1975年)の関本郁夫だったりするから、これがまたタマラナイ(ちなみに『ゴルゴ13 九龍の首』は、タイトルどおりに本当に香港九龍でロケをした。香港の人間であれば、まともな思考回路と常識を持っていれば決して近寄らないという、香港マフィアの巣窟・九龍。バイタリティでは世界に名を馳せる香港映画界ですら、決して足を踏み入れないその九龍に、我等が東映と千葉真一は颯爽と乗り込んで、本当にロケをやってきてしまった。まるで勇猛果敢な武勇談のようでもあるが、ある意味これは「東映には人権はない」を立証する状況証拠でもある)。
キャスティング・絵面的にも、渡瀬恒彦、梅宮辰夫(そりゃ「不良番長」ですから)、志賀勝、片桐竜次なんていう、つい一ヶ月前まで数々の刑事ドラマで、チンピラやヤクザ役として、ドスや拳銃を手にして国家権力警察を相手に、無双状態で戦い抜き、血まみれで死んでは、また次の週には違う刑事ドラマで暴れていたような連中が、今度は正義の味方マッドポリス(一見、ヒーロー戦隊みたいなネーミングではあるが、冷静に直訳してみれば『気狂い警察』である)として徒党を組んで、各自、対戦車ライフルや手榴弾やマシンガンを手に、ジャパンマフィアなんていう、こちらもまたショッカーみたいな名前の悪の組織と、殺すか、殺されるかの戦いが、毎週毎回容赦も加減もないまま、繰り広げられるのだ。