実際、レンタルビデオ文化は、1989年にNHK衛星第1テレビジョンから始まった、BS衛星放送やWOWOW、ケーブルテレビ等のチャンネルの多様化や、レーザーディスク、ビデオディスク等の次世代ソフトの普及を前にしても、その隆盛が揺らぐことはありませんでした。
逆に、テレビの全話BOX等の商品化に踏み切ったレーザーディスクとは、ユーザーの住み分けにも成功しました。

消えゆくTSUTAYA

むしろ、今回のニュースで報じられたTSUTAYA等は、レンタルビデオ業界としてはいち早く最大手になりましたが、その秘訣が「徹底したマーケティングリサーチ」でした。
この魔法の呪文は、ふわっとしたマジョリティの需要を拡大させますが、マイノリティは徹底的に排除していきます。
実はあの時代、「そこ」を補完していたのが、「街の個人経営のレンタル屋さん」だったのです。
確かにビジネスとして考えた時、TSUTAYAが扱いあぐねていたアダルトビデオカテゴリを、そういった個人経営の店はメインで扱うことによってパイを分け合うわけですが、一方で個人経営の店は、その店のオーナーの趣味でラインナップを選んでる場合も多く、仲間内でも「〇〇駅の『〇〇』ってレンタル屋では、『〇〇』が全巻揃っているらしい」というような情報が飛び交い、バイクを走らせたことが何度もありました。

しかし、マーケティングリサーチという魔法の呪文の前には、経済力では個人経営は叶いません。
TSUTAYAは次々に、日本国内どの県の、どの私鉄沿線のどの駅前にでも出店して、細々と経営していた個人商店のレンタル屋を潰して成長を繰り返していきました。

この成長は、DVD時代になっても巧くそこで、TSUTAYAは扱うソフトを、時代に併せてビデオからDVDに切り替えて経営を維持し続けました。
それと並行する形で、バブルも弾け、失われた30年へ突入していく日本経済の中で、ソフトの在庫を一気にビデオからDVDに切り替える経済的体力は個人店にはほぼなく、TSUTAYAの進出で削られ続けていた勢力は、ほぼ壊滅してしまいました。
その先で、2010年代になって、本格的に日本人のライフスタイルに「web配信でドラマや映画を観る」という文化が定着し始めました。AmazonPrimeVideo、Tver、Hulu、Netflix、GYAO!、dTV、民放各局のオンデマンド。ポータルを上げ始めたら枚挙にいとまがありません。
こうした文化の推移の果てに、音楽も今や配信やダウンロードで手に入れる時代に、DVDとCDをレンタルするビジネスが、本格的に終焉したというのが今回の主題であり、多少ノスタルジックに語らせて頂いた次第です。

このビジネスの推移は、TSUTAYAをBOOKOFFに置き換えれば、ほぼ同じことが現在進行形で起きています。
BOOKOFFの急激な成長と市場の独占は、古本市場の価値を変え、古書という独自の文化の歴史が、一企業のマーケティング主義だけで、転換期を迎えさせられている現実が、まず前提論として酷似しておりますし、そういった書籍類も、絶版になったものの復権運動も含めて、今の時代は次々電子書籍化へとシフトが進んでおり、kindleブックパス等のブランドも競合をはじめ、古本の行き場がなくなりかけているという現実も、現状のレンタルDVDの相似形とも言えます。

よく、バブルの功罪を語る時、大店法(大規模小売店舗法)が、米国からの圧力を受けて改正された1991年以降、ジャスコ、イオン、トイザらス等の大規模郊外型店舗の急激な進出が挙げられます。その結果、個人商店が軒並みあおりを受けて閉店を余儀なくされ、シャッター商店街問題等に繋がったことは、私達の世代では記憶に新しいです。
悲しいかな、断言してしまえるのは、仮にTSUTAYAが、BOOKOFFが、イオンやジャスコ等の大規模店舗が、経済体力を失って姿を消したとしても、一度淘汰された商店街や、街のレンタル屋さんや古本屋さんは、もどっては来ないのです。
巨大資本の邁進の為に駆逐された「街のお店」は、その巨大資本が消えれば、その街が死ぬだけです。
ジャスコやイオンが撤退したとしても、シャッター商店街が賑わいを復活させることは、ほぼ無理でしょう。

人は、人生を、歴史を、過去から未来へと、一方通行でしか進めません。
「街のお店」を駆逐したTSUTAYAやBOOKOFFが、今「web配信」に苦しめられているように、日本中の商店街を駆逐して回ったイオンやジャスコは、同じようにAmazonなどのECサイトと戦わねばなりません。
あくまで噂ですが、Amazonはその上層部が「最終的なAmazonの目的は、地球上から実店舗を消し去る事」だ、などとまことしやかに語り継がれております。

最終的に勝つのは、大店舗のジャスコやイオンなのか、AmazonなどのECサイトなのか。共存があり得るのか。
一方通行の人生ですが、私はまだ、その先を見ておきたいと思っています。
さて、今日の多事争論はそんなところです。

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