これは本来、本編解説で書くべき内容なのだが、よく『星の林に月の船』などを読んだだけのウルトラファンなどからすると、『ウルトラマン』(1966年)当事の円谷プロの特撮スタッフは、実相寺監督に対して排他的だったというような、一面的な印象を持ってしまうようだが、実は案外、特撮スタッフはその特撮シーンにおいても「実相寺風」を、なんとか画面から匂わそうと、実は奮闘していたというのは、『恐怖の宇宙線』の特撮カットで、しきりにガヴァドンを、土管越しに写して見せたりしている辺りからも伺えるのである。
なぜそんな話をするかというと、例えば本話でもその「実相寺風演出を特撮に取り入れる」は果敢に挑戦されていて、本話のテレスドン大暴れから、クライマックスのウルトラマンとの戦闘までの描写は、放送規定ぎりぎりの照明によって演出されているのである。
これはもちろん、当事の高野宏一特撮監督以下のスタッフが、本話においての実相寺演出のテーマ「光と闇のコントラスト」に対して、特撮ならではの角度からアプローチした結実ゆえである。
なので、それを再現することを、使命にしている筆者の再現特撮も、極限まで照明を絞り落とし、その中でどうやって画を刻み込んでいくかをテーマに、画像を作っていくことになったのである。
冒頭のビートル飛行カット以外は、以降は全て深夜のカットになる。
黒背景・紙ビルセット・高速道路といったセット構築で撮影に入る。
テレスドンの目は全カット光らせて描画し、ビートルの攻撃や、テレスドンの吐く炎などはくっきりと明度を上げる。
ディティールがつぶれるギリギリまで、画像全体の明度を下げて、その中に、曳光弾や炎を浮かび上がらせる映像演出を取り入れた。
地下に閉じ込められたハヤタが、ウルトラマンに変身するまでは、画像をモノクロに変換して、その後に赤く彩度をあげる手法で画像を作成。
変身した直後の、光溢れるウルトラマンの画像の元写真は、日差しの強い夏の午後に、屋外で撮影した写真をベースにして作成している。
ウルトラマン対テレスドン。光線技を使わない肉弾戦。
ドロップキックから、ジャイアントスウィングを経た首投げで勝負が決まるまで、プロレスを意識した殺陣を忠実に再現してみた。
画像を見た方々の耳の奥に、あのテレスドンの地鳴りのような咆哮が聞こえたら成功である。