ここで、本話に登場する怪獣・ゲスラについても少し語ってみたい。

60年代から70年代に少年期を送ったウルトラファンの子ども達に、共通する疑問が、ゲスラには存在していた。

それは、放映後に発刊された怪獣図鑑などに、必ずゲスラは「ゲラン蜂の幼虫が巨大化した怪獣」として、解説が書かれていたからである。

本編を見れば解るとおり、ゲスラは作中では「カカオの豆を常食にしている、トカゲが巨大化した怪獣」と語られている。

もっとも、作中でもトカゲであったり、両生類とも呼ばれていたりするが、少なくとも「ゲラン蜂の幼虫が巨大化した」とは全く語られていない。

それに、そもそもゲスラ自体、トカゲや両生類には見えても、とても蜂の幼虫には見えないのだ。

当時の怪獣図鑑などに書かれていた「ゲスラはゲラン蜂の幼虫怪獣」は、「ツインテールは海老の味がする」と同じくらい、印象深い記述であった。

どこをどう見ても、蜂の幼虫には見えないゲスラ。

これには当時の円谷が抱えていた、台所事情が絡んでいる。

よく、第二期以降のシリーズを語る時、「昔は良かった。時間も予算も潤沢だった」等と語られることはあったが、実はどっこい、黄金のシリーズ第一作『ウルトラマン』においても、台所事情やスケジュールは厳しかったのである。

子どもの頃は気付かなかったが、大人になってウルトラマンを改めて見直すと、小道具・怪獣に関しては、特に初期は、他作品からの流用・改造で、済ませていたパターンが多いのだ。

例えば科特隊のビートルは、1962年に公開された東宝SF映画の傑作『妖星ゴラス』の小道具の原型から作られているし、怪獣に関して言えば、ネロンガ・ガボラはパゴス(元バラゴン)のカスタムであるし、ラゴンはほとんどそのままで登場。本話のゲスラはピーターのカスタム。『怪獣無法地帯』では、主役のレッドキング以外は、チャンドラー(ペギラ)ピグモン(ガラモン)マグラー(パゴス)のカスタムと、殆どが『ウルトラQ』怪獣の改造なのである。

確かに、そうなった要因は予算だけではない。

そもそも『ウルトラマン』は、前作『ウルトラQ』が国民的人気番組になったのを受けて、シリーズ強化案として企画された「怪獣対決シリーズ」の、変更アイディアとして企画しなおされた番組なのである。

「怪獣対決シリーズ」とは、Qに登場していた怪獣達が、オリジナルのストーリーで再登場して、互いがバトルしていき、トーナメント方式で最後にQ怪獣最強を決めるという企画であり、その企画の変更で成立したウルトラマンという存在が、その初期においてQ怪獣達と戦うのは、それはまっとうな図式であったかもしれない。

しかし、その後も続く形で、ベムラーがギャンゴに、ガマクジラがスカイドンに、レッドキングがアボラスに、ガヴァドンがザンボラーに、ゴモラがザラガスに、ヒドラがギガスに、ラゴンがザラブ星人へと、次々に同番組内において改造されていった経緯を見るに、当時の円谷の予算と資金は、子どもが夢見るほどには、潤沢ではなかったことが予測できるのである。

もちろん、そこで評価すべきは、その生臭い「予算の苦しさ」を、決してテレビの前の子ども達に感づかせなかった円谷の手腕とプライドであり、怪獣のカスタム・リデザインを、圧倒的芸術スキルで行った、成田亨・高山良策コンビの才能ゆえであったりするのも、動かしがたい事実である。

本話のゲスラもまた先述したように、Q怪獣のピーターの着ぐるみの改造であるのだが、全身の棘のモールドと、カラーテレビを意識した極彩色のカラーリングによって、元のピーターにはない派手さとインパクトが与えられ、元の怪獣とは全く違った印象を見る者に与えている。

(ちなみにこの手法は、ベムラーを改造したギャンゴでも発揮される)

だがしかし、そもそも脚本段階までではゲスラは、東宝からモスラの幼虫を借りて、それに棘や角をつけたブロップで撮影する予定であったのだ。
実際に、モスラの幼虫をベースにした着ぐるみ改修案が、成田亨氏の手で描かれている。

モスラの幼虫をベースにした、ゲスラ初期案のデザイン

だから脚本資料を元にした、当時の怪獣図鑑では「ゲラン蜂の幼虫」として解説されていたし、急遽現場で変更された台詞などでは、急遽過ぎたために「トカゲ」であったり、「両生類」であったりしたというわけなのだ。

まだまだ、怪獣という、キャラクター産業の黎明期。 シリーズの基礎を固める時期での、紆余曲折が伺えるエピソードではあるが、野長瀬監督の才能と技術は、それを子どもに感じさせず、一級のエンターティメントとして、本話を仕上げているのである。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事