テーマ性やドラマツルギー等、誰も求めない。
凝りに凝ったディティールと、熱いバトルと「噛みついたら離さない野獣の魂」
それらを揃えた背景に「70年代」が克明に描かれていれば『ワイルド7』たりえる。
逆を言えば、それらのうち一つでも欠ければ、例え原画がいくら必死に頑張って、望月三起也画を模写できていたとしても、それは「僕達の『ワイルド7』ではない」のだ。
「『ワイルド7』がOVA化される」それを最初に聞いた時に抱いた、不安と期待は、とりあえず前情報を聞くにつれて互いに高まっていった。

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声優陣は満点のチョイスだろう。主演の飛葉に関俊彦氏を起用して、他のワイルドメンバーにも、山寺宏一氏、矢尾一樹氏、玄田哲章氏、おまけに世界役に小林清志氏まで呼び込む配役は、これはもう奇跡的な配役、当時のベストキャスティングと言っても良い。
この手の企画にありがちな「話題作りの為の本職声優以外の配役」においても、草波隊長の声をあてるのは、なんといっても寺田農氏という実力派の大俳優。
オヤブン役のコント山口君の起用も、発表時には不安がよぎったが、いざ作品内での演技をみてみると、意外と発声もしっかりしているし、オヤブンというトボけたキャラにもはまっていて違和感は少ない。
キャスティングで一番批判が集中したのが、チバレイこと千葉麗子嬢によるイコちゃんだが、イコちゃんは実は、『ワイルド7』全編ではそれほど重要なキャラとはいえず、しかも実際の作品では、イコの妹の志乃ベヱを実力派の折笠愛さんが固めているので、喫茶店VONのシーンがさほど浮かずに済んでいるのも実際の話。

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しかし『シティーハンター』なのか? それで大丈夫なのか? そこへの不安は尽きない。
なにせ物が『ワイルド7』なのだ。コアなファン層の期待とハードルは、それこそ『デビルマン』並みに手ごわくて高いはずだ。
そういえば同じように「70年代に一度リアルタイムでテレビ化されて、後に改めて原作準拠でOVA化された」という意味では既に『デビルマン』(1989年)が「原作そのままのOVA化!」を謳いつつ「確かに画も声もハイクオリティだけど、なんかコレジャナイ」でがっくりしたデビルマンファンの落胆ぶりを(他人事のように)目にした自分としては、「せめて『ワイルド7』だけは!」と心の中で懇願していた。
チバレイの声優っぷりは既に同年のフジテレビスペシャルアニメ枠の『SAMURAI SPIRITS』(1994年)でいやがうえにも実力は把握していただけに、不安材料が「それだけ」で済むことを願い祈るしかなかった。

しかし、いざ完成してフジテレビの深夜枠で放映された作品を観てみれば、むしろ、チバレイ(そもそも声優ではないので。本人を責めるのは筋違い)の棒読みぶりが、全く問題にならない程、完成したOVA版『ワイルド7』は「違和感」に満ちていた。

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私見を交えず批評するのであれば、OVA版『ワイルド7』は傑作とは言い難いが、決して駄作ではなく、佳作の域には入るクオリティには仕上がっているのだろう。
しかしそれは、普段アニメを観慣れてない一般層か、逆にアニメを観慣れたアニメマニア、もしくは業界通に見える見方と評価であって、あくまでも(この「商品」が志向すべき)「四半世紀煮凝ったワイルドファン」からすると、設定の煮詰めと時代考証の脇が甘すぎて、アイドルの棒読み等問題にならないくらい、「ワイルドをアニメにするということは、どこに拘らなければいけないのか」に対して、配慮が足りなさすぎる駄作というしかない出来に成り下がっていた。

いや、一応制作側も「そこ」はターゲットにしていて配慮はしているのだ。
例えば、『ワイルド7』に登場するバイクや拳銃は全部、70年代に実在した実物で、だからこのOVA版でも、バイクのSEに関しては「とあるバイク旧車愛好会」を通じて、当時のバイクのレストア車の排気音をサンプリングして使用する等々「がんばって細部にまで気を配って」ワイルドファンの夢を満たそうとしているのだが、そもそも制作側やスタッフが、ワイルドマニアではないからか「肝心なところで、些細な部分で」そこを満たしきれないどころか、余計な部分で水を差されてしまい、のめり込めない作品に成り下がってしまったのだ。

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