前回は『犯罪・刑事ドラマの50年を一気に駆け抜ける!(70年代をナメるなよ)』Part6

 一方、かつて『太陽にほえろ!』で天下を取り、さらにそこから派生した『傷だらけの天使』『俺たちの勲章』で「犯罪・刑事・青春」ドラマの王として君臨していたはずの東宝は、この時期、鎌田敏夫・斉藤光正コンビの『俺たち』シリーズが終わりを告げて、少し迷走していた。
 どのくらい迷走していたのかというと、この時期東映の『探偵物語』と被る頃合で、当時流行り始めていた「コメディタッチでライトなキャラで描く探偵物(要は東映と優作の『探偵物語』は、この流行のピークだったのだ)」においても、一山稼ぎたいという欲を持ってみたのだ。そのタイトルは『俺たちは天使だ!』(1979年)

『俺たちは天使だ!』メインとなる麻生探偵事務所の面々

 タイトルだけ聞くとまるで『傷だらけの天使』の続編か、鎌田・斉藤コンビの『俺たち』シリーズの延長上かと錯覚してしまいそうだが、実はその2作品とは、スタッフもキャストも基本的には殆ど関係ない。
 むしろ、見方としては当時『太陽にほえろ!』(1972年~1986年)を製作していた東宝テレビ部が、片手間に、気軽さでこしらえたライトコメディ作品の感が強い。

 むしろ、お坊ちゃまブルジョワ気質の東宝であれば、それくらい肩の力が抜けてた方が何かと都合が良かったのかもしれない。
 結果オーライに聞こえてしまうかもしれないが、まずは『太陽にほえろ!』メインライターの長野洋小川英が名前を並べ、そこへ『ニッポン無責任時代』(1962年)『大冒険』(1965年) 『喜劇 負けてたまるか!』(1970年)などで東宝喜劇映画の頂点に君臨していた巨匠作家・田波靖男や、東宝を本籍地とする柏原寛司が文芸陣として名を連ね、演出は、土屋統吾郎木下亮の完全ローテーションという枠組みは「いつもの安心感」と「新鮮さ」を、微妙な(絶妙な、ではない)バランスに仕立てた。

 配役も、沖雅也、勝野洋、小野寺昭、下川辰平、神田正輝長谷直美辺りは、完全に「元」「現」「次」どれかの『太陽にほえろ!』七曲書のメンバーであり、その辺のスケジュールを縫って、こちらの撮影スケジュールが立てられた感が満載(笑)
 秋野太作田坂都辺りは、東宝青春ドラマ系からのスピンオフであり、脇の固め方も、どう見ても『大追跡』(1978年)からの流れで構成されており、柴田恭兵、渡辺篤史多岐川裕美といった面子であった。

 視聴率的には、期待したほど振るわなかったが(まぁもっとも、そもそも期待していなかったという説もある)先ほど書いた「肩の力の抜け方」が東宝カラーには珍しい効果を与え、東映セントラル『探偵物語』とはまた違ったニュアンスで「探偵コメディドラマ」のカルト的な人気を、今も誇っている。

 東宝独特の、どこか品のある育ちの良さも健在で、沖雅也が経営する麻生探偵事務所は『探偵物語』の工藤探偵事務所がそうであったように、この手の探偵コメディのお約束として、いつも貧乏で仕事に困っているのだが、『探偵物語』で貧困の工藤ちゃんはそういう時は、ある意味リアル過ぎる物腰でカップうどんをズルズルと食べていたものだったが、麻生探偵事務所の場合は「アジサンド」という、謎の貧乏食がネタとしてレギュラーだった。
 言ってみれば簡単。焼いたアジの干物を食パンで挟んだサンドウィッチなのだが、どうでもいいがこれ、アジの小骨が面倒で、食べるのめちゃめちゃ難しくないですかい?
 筆者は思春期の頃「キリマン1、モカが2、ブルマンが3」の「工藤ちゃんブレンド珈琲」は、自宅で再現して、サイフォンで入れて飲んでいたものだったが、このアジサンドだけは、さすがにやってみる度胸はなかった(笑)
 ドラマの内容は覚えてない人でも、このドラマの主題歌だったSHOGUN『男達のメロディー』は、聴いたことがある人も少なくないと思われる。
 「運が悪けりゃ死ぬだけさ 死ぬだけさ」と歌い上げるサビの爽快感が印象的で、この曲は当時で50万枚の売り上げを記録したそうだが、SHOGUNは続いて『探偵物語』の主題歌『Bad City』『Lonely Man』と(リーダーのケーシー・ランキンが)BGMを担当しているので、SHOGUNは期せずして、東映と東宝の、二社の日本テレビ看板探偵ドラマを双方担当したことになるのである。


 ちなみに、上でも書いたとおりにこのドラマは一部に熱烈的なファンを持つカルト級で、それゆえか、時も21世紀を迎えた2009年に、いきなりリメイク作品『俺たちは天使だ! NO ANGEL NO LUCK』が、深夜ドラマとしてなぜかテレビ東京で放映されたという経緯を持っている。


 『俺たちは天使だ! NO ANGEL NO LUCK』の場合は、正統的リメイクとして、深夜ドラマで堂々と作られたわけであるが、いろいろと(小野寺昭が出演していたり、アジサンドが出てきたり)小技は効いているが、その出来に関しては、まぁ少々辛い物になってしまったと言わざるを得ない。
 自分の感性とかセンスが、浦沢義雄の脚本と肌が合わないだけかもしれないので、一応「旧作ファンは一見を」と申し述べておく……(この「無難な一言」で、どんだけの涙が流されたことか(笑)『デビルマン』『キューティハニー』『電人ザボーガー』『ワイルド7』『ルパン三世』などなど(笑))

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