ラブコメ漫画が大嫌いだった。
当時は『うる星やつら』『みゆき』の影響で、ラブコメ漫画がどどっと台頭してきた時代だった。
そこへの嫌悪感が先走ったので、押井守監督の力量を見抜くのが一年遅れたが(笑)中学の時に、つるんでいた先輩の女優が主演した『翔んだカップル』(1980年)を、最初は義理で映画館へ観に行って、その洒落にならないリアリズムと輝きに心奪われた。
やべぇ、何俺アイドル映画に感動してんだ?
そう思って、そこでクレジットされた監督と脚本家の名前を頭に叩き込んだ。
相米慎二監督とコンビを組んだ脚本家の名前は丸山昇一と書いてあった。
丸山昇一は、ほぼ同時に松田優作の伝説のドラマ『探偵物語』(1979年)で、メインライターとしていきなりデビューを飾ることになった。

20代になる直前、その時に付き合っていた彼女が、「この漫画ってあなたっぽいよね」と、一冊の漫画を手渡した。
今で言うレディスコミックの走りのような漫画だったが、『唇にブルースハープ』というタイトルのその漫画は、筆者の魂を揺さぶった。
中学時代にARBを聴いたとき以来の衝撃だった。
その原作者・狩撫麻礼氏の漫画を、僕はその後30年追いかけ続けた。

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パンクムーブメントがイカ天バンドブームに飲み込まれそうになった頃、僕はいかにしてパンクの魂を守りながら、自分の好む音楽をチョイスするかで模索していた。
イカ天はろくな音楽を発信はできなかったが、その中で魂が震えたのがBIGINだった。
同時期、喜納昌吉りんけんバンドディアマンテスの音楽にも心惹かれることがあった。

映画では『パラダイスビュー』(1985年)という映画に魂を奪われた。
その時、フッとした思いが頭をよぎった。
『パラダイスビュー』は復帰前の沖縄を扱った、沖縄出身の高嶺剛監督による映画。
思えばBIGINもディアマンテスもりんけんバンドも沖縄の音楽。
なんだよ、ひょっとして、自分は知らず知らずのうちに沖縄にはまってんの? と。
なんでもアリの大河さんとしては、おいおい偏っちゃってるんじゃないの?と。
ダメでしょう、自分的には聖地は九州博多なんだから、沖縄なんて300年越しの敵同士でしょう?と苦笑う。

そんな頃、ライター仕事ではまった大江健三郎氏の著作「沖縄ノート」から辿って、子どもの頃にはまった『ウルトラマン』(1966年)『ウルトラセブン』(1967年)が、沖縄出身の作家・金城哲夫氏によって紡ぎ上げられたことが分かり、その後を受け継いだ『帰ってきたウルトラマン』(1971年)もまた、沖縄人の上原正三氏がメインで作品を書き上げ続けて、彼は後に、筆者が思春期に引きずり込まれた『宇宙刑事ギャバン』(1982年)『宇宙刑事シャリバン』(1983年)の脚本を書いたことも知った。

いつかここでも書くこともあるかもしれないが、僕は思春期前に一度、市川森一氏の書いた『帰ってきたウルトラマン』に命を救われているが、その彼が、人生で一番心酔し尊敬していた作家が、金城哲夫氏だと知ったのもその頃。

そしてまさにその頃、一本の映画が企画された。

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監督・主演が松田優作、そしてARB石橋凌
脚本が丸山昇一で、原作が狩撫麻礼という布陣の映画『ア・ホーマンス』(1986年)
驚いた。
驚くというよりは、むしろ恐怖で体が震えた。
優作と丸山の共犯映画はそれまでもあったので、そこまではある意味予定調和だが、まさか石橋凌が俳優として主演するとは。そしてよもや狩撫麻礼の漫画を、優作が原作に選ぶとは。
冗談抜き、誇張抜きで当時筆者は、「これは神が俺の為に用意した映画である」と思った。
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その映画を、なんとかしてこの目でいち早く観なくては。
その衝動と義務感にかられた僕は、当時出入りしていた特撮雑誌『宇宙船』の編集長を半ば(いや、かなり本気で)脅した。
「ある意味、あれも特撮映画なんだから、俺にページを寄越せ!」
かなりの勢いで、編集部に通い詰めて懇意になっていた当時の『宇宙船』編集長に詰め寄った。
「まぁ……そこまで言うなら。1ページだけね」
迫力勝ちしたのか、一応、了承を取り付けた。
当時は、洋画も邦画も特殊メイクを売りにしたエンターテインメントが盛り上がっていた時期で、『ア・ホーマンス』も「そういう要素」でSF映画としての立ち位置を得たようなニュアンス。一応、『宇宙船』で扱うアリバイは確保していると言えた。

しばらくして。『宇宙船』編集部の取り計らいで、僕はなんとか銀座にある東映試写室にもぐりこんだ。
そこで描かれたのは、優作、丸山、狩撫、ARBの魂が見事に融合した、「人と人の繋がり」の物語だった。
混沌として冷めた街に現れた一人の「使者」が、ほんの一瞬の風を吹かせて去っていく物語。
ラストシーンを観終わり明るくなる中、拳を震わせむせび泣いた僕に、懇意にしていた東映の部長から、「マスコミ向けの誇張表現を抜きにしたら、関係者試写で泣いた奴は、俺が知ってる限りお前がはじめてだよ」と大笑いされた。

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その、涙で見えにくかったラストシーン。
「腐りきって冷め切った街」に風を吹かせにやってきたその男が去っていく、そのシーンで男が乗るバイクのナンバーは「沖縄」だった。

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