ミクラス メビウス版 2006年
ウィンダム同様、ミクラスもまた2006年の『ウルトラマンメビウス』で「マケット怪獣」としてリバイブされて登場し、その着ぐるみ準拠でソフビ化された。
まず、ここに関してビジネス的視点から解説を加えると、まず平成ウルトラに関しては、長らくタイのチャイヨーとの権利化問題から、登場するウルトラマンを昭和の設定とリンクさせたり、過去の怪獣をそのまま出すことが様々な要因で不可能であった(『ウルトラマンコスモス』(2001年)では、バルタン星人を始めとして、様々な昭和人気怪獣をアレンジリファイン下怪獣が登場したが、バルタン以外は全て別キャラであり、オマージュ扱いであった)。
しかし、2004年のNプロジェクトの大失敗と、チャイヨーとの裁判の進行などから、まず『ウルトラマンマックス』(2005年)で、エレキングやキングジョーやゼットンなど、昭和ウルトラの人気怪獣が殆どそのままに、造形を新しく(中にはアトラクションショー用がベースの物もあったが)作られて登場して、親子世代の人気を得ることに成功した。
そして、満を持してウルトラ兄弟を含めて、M78星雲設定を復活させて、過去の人気怪獣やウルトラマンを結集させたのが『ウルトラマンメビウス』なのである。
メビウスでは、殆どの昭和シリーズから必ず一体は再登場しており、セブンのカプセル怪獣も、ウィンダムとミクラスが選ばれたのはウィンダムの解説で書いたとおり。
比較的セブンどおりに再現造形されたウィンダムと対を成すように、ミクラスはあえて「狙って」ファンシーなゆるキャラへとデザイン段階から変更されている。
それはもう脚本段階から確信犯で、防衛隊の眼鏡っ子女子キャラ隊員のペット扱いで、表情も笑ったり泣いたり、明らかにキャラが変わっており、ソフビもメビウス版を手にしたときは、様々な思いが去来した。
まず、「ミクラスのソフビ」として、市場最高峰のクオリティは半端なくあるということ。
逆三角形な体形、太い手足、巨大な頭部と、そこから天空に向けて伸びる4本の角のうねりのライン。
それらはまさに、過去のいかなるマスプロメーカーも再現しえなかった「ミクラスらしさ」に溢れている。
また、塗装のレベルの高さも究極だった。単純に塗り分けるべきところは全て塗り分けられていて、細かい体表のディテールなどもリアルに再現している。それどころか、角の(造形パーツとしての)汚しなどまで塗装で再現されており、2006年ピークのポテンシャルが存分に発揮されている。
だから、筆者も『ウルトラセブン』を再現する時、セブン版ではなくメビウス版を使ってしまった。それはもう一つに、その(『光の国から愛をこめて』開始当初)は「ソフビをリペイントする」発想がまだなかったというのもあったが。
しかし、顔。
いや、バンダイや円谷プロが巧かったのは、ミクラスの顔の造形の、パーツの形や位置や数などは、何一つセブン版とミクラス版で変更されていないのだ。けれど、その際での、眼の大きさや微妙な角度や、唇の太さや位置など、ニュアンスの部分で全くセブン版と印象を変えることに成功しており、そしてそれが決して偶然ではないことは、メビウス版の着ぐるみとソフビが完全一致の「セブン版との違い」を共有していることが証明している。
結果、メビウス版ミクラスの顔は、女子高生が抱きしめたくなるほど、ファンシーでゆるかわいいデザインで造形されている。
なので、やはりこの顔のソフビで、メビウスを再現する分にはしっくりくるが、セブンでエレキングやガンダーと絡ませても、今一歩「コレジャナイ」感は半端ない。
しかし、今となってはリテイクも無理なので、自分が15年前に、セブン版ソフビのポテンシャルを見抜けなかった自戒を込めて、そのままにすることにした。
ここまでの苦言は、実は商品としてのメビウス版ミクラスのソフビには一切責任はない。
メビウス版ミクラスは、メビウス劇中のミクラスを再現したソフビなのであり、そういう意味では完璧満点の出来を誇っているのだから、それをして「セブン版に似ていない」という筆者の不満は、まったくもって言いがかりであり難癖でしかない事ははっきりしておこう。
では、ここから改めて「ソフビとして」のセブン版とメビウス版を比較してみる。
まずは、プレイバリューとしての可動の違い。
普通に立たせていると、ポーズとしてはメビウス版の方が自然であり、セブン版は固い直立不動に見えるが、双方の腕可動を比較してみよう。
メビウス版ミクラスの腕可動
メビウス版は、もともと脇が開き気味のポーズで造形されている上、片口の葉っぱの両脇(?)部分もしっかり厚みをもって造形されているので、これ以上腕が上がらない。イメージとしては不足はないが、可動範囲としては実に心もとない。
セブン版ミクラスの腕可動
セブン版の方は、腕の取り付けが不自然だった代わりに、こちらの腕はほぼ360度回転が可能であり、だいたいのシーンの演技を再現可能である。
(もっともセブンでは、ミクラスの出番は2話だけなので、その2話分の演技が再現できればそれ以上は必要はないのだが)こうしてみると、そもそもの成田亨デザインが異形のシルエットとしての、オンリーワンの怪獣を生み出したわけであり、それをその特徴そのままにソフビ化するのに、マスプロだと40年がかかったということなのだろう。
顔の表情バランス「だけ」の違和感。ここに拘った時、許して受け入れるか、あくまで拒むか。
元々の『ウルトラセブン』という作品と、ミクラスという怪獣が、そういう拘りを産みやすいデザインでありつつ、ファンシーで現代的にアレンジしやすいという、鏡面のような存在だったがゆえのギャップなのではなかろうか。