前回は「市川大河仕事歴 映像文章編Part5 ゲームライター・前「君は今日からスパロボマスターだ!」」

スパロボマスターってなにぃぃいぃィイイッ!?
僕はその場で絶叫しそうになった。
別冊宝島の編集長、M橋氏はにこやかに僕を指さした。

「ゲームの業界には“名人”あり! 高橋名人! 毛利名人! しかし、もはや“名人”などという称号自体が古いんです! “名人”の世を塗り替える最高の称号、それこそが“マスター”なんですよ!」

ちょっと待って!
“それ”、答えてないよね!? 僕の質問の肝心な問いかけ部分に対して、何一つ回答してないよね!?
スパロボマスターの“スパロボ”が、そもそもゲームの『スーパーロボット大戦』のこととは思われるけれども、そこから一歩も理解が前進しないんだけれどもぉぉおおォォォオオッ!

「だから、大河さんは今日から、スパロボマスターなんですッ!」

話題がなんで前進してるんだよ! 俺の理解速度と全く歩調が合わねぇよ! 一度戻れよ! マスターってなに!? マスターっていったい、何をする人なのぉおォオオッ!?

「今までの『別冊宝島 このゲームがすごい!』に足りなかったものは“名人”だったわけです。人気ゲーム雑誌には、みんな誰かしらの“名人”が在籍していました。しかし、我が誌にはいなかった……今まではッ!」

なんで語尾上がりなんだよ!
いなくていいじゃねぇか! いなくても誌面は立派に成り立っているんだから!
とりあえず、お前はその話題をやめろ! なんかどの角度から聞いていても、嫌な予感しかしてこねぇんだよ!

「だからうちは! “名人”などという古臭い称号をあえて使わず“マスター”でいきます!」

いきますってどちらへですかぁあああ!?
そのマスターって、悲しけりゃうちへおいでよとか言ってくれて、涙吹くハンカチもある方のマスターですか!?

「大河さんは『スパロボマスター』として、華々しく今後の『このゲームがすごい!』の、スパロボ関連のネタを掘り下げていくのです! どこまでも!」

どこまでもって、永久機関かよ! それに掘り下げろって言われたって、もう掘り尽くしたよ! それでもどこまでも掘れって、もはやそれライターの仕事ちゃいますやん! 江戸時代とかの罪人の、佐渡の金山とかでの労役やないですかぁああッ!

「いいですか。落ち着いてください、大河さん」

その台詞、このシチュエーションで、お前の口から出るのかよぉおおおォオオッ!?

「次の『このゲームがすごい!』では、大盤振る舞いで4ページの誌面を、大河さんのスパロボ記事に割こうと思います。スパロボシリーズには様々なゲームが乱立しているので、それを解説する図解も必要でしょう。今大人気のこのゲームの、敷居が高いと思い込んで入れないライトユーザーに、見事にそのゲートをくぐらせる文章を、書いてください!」

4ぺージで!?
しかも、1ページを図解に割いちゃうの?
その尺でそこまでの要求って、なんていうか、どう考えても「読むライトユーザー」じゃなく「書くゲームライター」がゲートをくぐれなさそうな気しかしないんですけど、それで大丈夫なんでしょうかァ!?

「これでうちの誌面も、他のゲーム雑誌の上を行けますよ! さぁ大河さん、がんばってください!」

お前、なんで人の話を1mmも聞かない能力で、編集長なんかやれちゃってるんだよ!
どうすんだよ! 俺なに? これからこの業界で、知らない他社の編集さんとか出版社の人と出会ったら「こんにちは、スパロボマスターの市川大河です」って名乗るの!? 名刺に「スパロボマスター」って刷るの!? それ、もはや懲罰だよね!?
とりあえず、その日はバイクで帰りつつ、ゲームとは微塵も関係ない他の原稿を打ち込みつつ、さぁどうしたものかを考える。
編集長が独断で決めちゃったことだから、もはや逆らうことは出来やしない。
やるとなればやるしかないが、現状自己防衛だったり経済体制の自給自足的充実のためには「そのままスパロボマスター」の冠の横車で、続く『このゲームがすごい!』で、スパロボ関連の「安定した連載」を掴むべきか。それとも「この一件を“貸し”にして、さらなる次の『このゲームがすごい!』で、看板企画を打ち立てて掲載させていただく」か。
どちらにせよ、悪い話ではなさそうだ。さすがマスターを称させられるだけあって、僕はスパロボシリーズの全ソフトの攻略法やユニット特性や、ゲームごとのバランス感覚は全部そらで(当時は)覚えていた。
ある意味、脳内ストレージのリソースだけで書ける記事だけに、意外と手間はとらなかった。
謎の「ゲーム間世界観相関解説図」を描かされるデザイナーの人との打ち合わせも巧く行って、まぁ原稿はなんとか書きあがりました。
大河さん、昔からプライベートでも遅刻するのは、なんか「負け」っぽくって嫌いで、原稿締め切りでも、絶対当日より早く納稿する癖があるので、まぁこの時も、なんだかんだで締め切りよりも早く書き上げ、入稿してミッションを完了させた。
……で、いつものように、刷り上がった『別冊宝島 このゲームがすごい! 任天堂編』が送付されてくる。どれどれ、仕上がり具合は……と。

刊行された『別冊宝島 このゲームがすごい! 任天堂編』表紙

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