実相寺昭雄監督の著書『星の林に月の船』で、実相寺監督が自身を投影した主人公・吉良は、特撮演出スタッフが、自分の映像感覚に理解を示さないことに憤るが、実は当時の高野宏一特撮監督以下特撮スタッフは、懸命に実相寺ワールドを、特撮映像で表現しようと苦心していたことが、本話の特撮を再現しようという目で見てみると、分かるのである。

高野監督が怪獣ガヴァドンを捕らえる視点は、常に工夫が凝らされており、それをしっかり再現することが、本話の魅力を伝える条件であると思い、今回はいつものルーティン特撮以上に、トリッキーな撮影が求められた。

冒頭の「ムシバが描いたガヴァドンの絵」は、実際の画面上の絵を見ながら、筆者がフリーハンドで描き起こした物。

実体化したガヴァドンをビートルが攻撃するカットでは、茶土台・青空背景セットに道路を敷いて撮影。「夕焼けに消えゆくガヴァドン」では、背景を夕焼けに変更して、別個に撮影したガヴァドンの画像を、三段階に分けて透明度を上げて、フェイドアウトしたガヴァドンの、ファンタジックさを演出してみた。

実体化したガヴァドンBの周囲には、紙で作った土管を配置した。

舞台は川原に移るので、セットも草原土台・セロファン川・青空背景に変更。

砲撃を開始する戦車隊は、タカラトミーが商品展開をしていた食玩の、ワールドタンクミュージアム第4弾で発売された、陸上自衛隊・61式戦車を複数使用。

『ウルトラマン』(1966年)の特撮では、この時期以降(円谷英二監督のコネクションだろうが)東宝特撮映画で使用された自衛隊兵器が、頻出するようになるので、このアイテムは今後も登場頻度が増えていくと思われる。

やがてウルトラマン登場。

前話『真珠貝防衛指令』では、飛翔してガマクジラに激突するだけだったので、Bタイプウルトラマンの肉弾戦は、本話が初となった。

ベアモデルソフビのガヴァドンBは、ウルトラマンよりもオーバースケールなので、その大きさの差が目立たないようにアングルを工夫する必要がある。

最後はウルトラマンに抱えられて大空へ消えていくガヴァドン。

ラスト、印象的だった「星座になったガヴァドン」は、これも筆者がフォトショップで、フリーハンドで描画して再現した。

今年ももうすぐ梅雨がきて、七夕の季節がやってくるが、そこに貴方はガヴァドンを見つけられるだろうか?

ガヴァドンA

ガヴァドンは、エピソードとしてマニアにはシリーズ屈指の人気を誇るにも関わらず、怪獣としては子ども人気が低いのか、新旧バンダイウルトラ怪獣シリーズのソフビでは、商品化はされていない怪獣である。

この辺はジャミラと似ていて、やはり佐々木・実相寺怪獣というのは、その物語の魅力も併せて大人好きする存在であり、子どもにとっては、手に取ってごっこ遊びをしたいタイプの怪獣とは、言い難いのかもしれない。

その「異色さ」は、作品シリーズ内だけにとどまらず、そこで登場するキャラを商品化する玩具会社も戸惑わせたのかもしれないが、ガヴァドンは、A・B共に、60年代のマルサンから始まって、70年代のブルマァク、旧ポピーキングザウルス、そして80年代以降現在も販売展開しているバンダイと、正規版権を獲得した、歴代のマスプロメーカーによる怪獣ソフビでは、今までに一回も商品化されたことがないのである。

そんな中で、バンダイの系列会社・バンプレストが展開している商品枠に「コンビニ一番くじ」というのがあった。

これは、サンクス、スリーエフ、ファミリーマートといったコンビニ(商品展開当時)で、500円を支払うことによってくじを引き、当たった賞品がもらえるという、システム商品であり、これまでにウルトラシリーズやドラゴンボールなど、親会社バンダイが版権を所有している作品を中心に、景品を展開しヒットしている商品であった。

バンプレストは、そもそもゲームセンターのクレーンゲーム景品など、プライズグッズを開発展開してきた会社でもあり、この一番くじの景品でも、その技術とアイテム化選択のノウハウが活かされており、バンダイが二の足を踏むようなマイナーキャラでも、率先して商品化する傾向がある。

それはもちろん、プライズ品や一番くじの景品が、単品で収支を決済する目的をもつ商品ではなく、あくまで、企画全体で市場を形成する役割を持つために、個別の商品・景品が、単独商品よりも自由度を得られるからであり、それゆえバンプレストの景品には、それまでバンダイでは商品化されていなかったタイプの「お?こんなものまで出るのか!」といったアイテムも少なくなく、そういった形で選択された商品が、マーケティングの隙間で、思わぬ購買層や集客力を見せるケースも多く、それゆえプライズ景品や一番くじの景品は、ファンにとっては見逃せないターゲットとして確立されていた。

その一番くじの一つ、2007年秋に展開された「一番くじ ウルトラ怪獣」で、事実上の2等景品としてラインナップされたのが、今回撮影に使用したガヴァドンAであった。

このガヴァドンAは、材質、サイズ、仕様の全てが、バンダイのウルトラ怪獣シリーズソフビに準拠して出来ており、それはおそらくバンプレスト側の確信犯的な「くすぐり」を、そこに感じ取ることが出来る仕上がりになっている。

再現性も高く、胴体の下に隠れて見えない足や、着ぐるみを制作する際の素材の継ぎ目に到るまで正確に作られている。

ガヴァドンAの立体物というと、歴代の正規メーカーソフビでは出なかったものの、現代の第三メーカーからは、結構多数が発売展開されており、思いつくまま挙げても、CCPからはリアルタイプのフィギュアが、ベアモデルマーミットなどからは、ディフォルメタイプソフビが出ており、本話の再現特撮に使用するに当たっては、選択肢だけは豊富に存在していた。

しかし、CCPのフィギュアは30cmサイズなので撮影に向かず、ベアモデルやマーミットのソフビは、その余計なディフォルメが逆にガヴァドンの持つ愛らしさや可愛さを殺してしまうと感じ、どれもこれも一長一短で、使用には踏み切れて居なかった。

余談だが、ガヴァドンは(実相寺昭雄監督や成田亨氏の思惑はともかく)ウルトラ怪獣の中でも、屈指の可愛さを持っている、愛すべきキャラクターだと、筆者も思っている。

しかし、その「可愛さ」を構成する要素は、本編登場時の着ぐるみと演技が、既に絶妙のバランスで成立させており、そのガヴァドンをフィギュア化するに当たって、改めて、可愛くディフォルメするという行為は、筆者から見ると、まさに蛇足的でしかないなと思うのである。

例えるなら、最高の素材を最高の料理人の手によって作った料理に、わざわざソースやらマヨネーズやらをドカドカかけて食べてしまうような、そんな下品さを「ガヴァドンをディフォルメしたフィギュア」からは感じ取れてしまうのである。

その点、この一番くじガヴァドンAフィギュアは、余計なディフォルメは一切施されない状態で、しかも材質、サイズはバンダイソフビそのままの仕様で商品化されたという、まさに「もしも旧バンダイウルトラ怪獣シリーズで、ガヴァドンAが発売されたなら」というifを、具現化した商品なのだ。

実際ネットの怪獣ソフビファンの中には、このフィギュアに、ガヴァドン用に自作した、旧バンダイウルトラ怪獣シリーズのタグを付けて遊んでいる人もいるくらいに、その商品仕様はバンダイウルトラ怪獣シリーズそのままなのである。

今回はこの傑作景品を、無改造・無塗装のまま撮影に使用している。

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