「知っている」
そのこと“だけ”が、人が孤独で寂しくて、追い詰められて、闇にしか見えない世界を生きる上で、救いになることを、「知っている」この作品のヒロイン、もえは、そんな少女だったのだ。
誰も信じてはくれない。
自分“ごとき”の命を軽く救って、自らは深く傷つきながらも、ヘラヘラ笑って、名前も告げず去っていく少年が“この世界に存在すること”を、誰も信じなくても、もえにとっては“本当のこと”であり、だからもえは、地獄を潜り抜けた先で、本当の笑顔で、申し訳なさそうに転勤の告知をしにきた母親に向かっていうのだ。

私、北海道へはいかない
おばあちゃんのところへ行くの
あの子の住んでる街へいくの

第57話『symbolize』

『風呂上がりの夜空に』全編を貫く、決して曇ることのないもえの、輝き眩しいほどの笑顔の背景を、小林じんこ女史は、あえてタイトルでまで茶化した忌野清志郎氏の詩の力を借りて、全力で「人が笑顔になれる、そこには絶対的な“何か”がなければ、成立しない」という真理を、70年代も80年代も、サブカルもメインカルチャーも超えた「当たり前の本当のこと」を、ベースに作品を描き続けたのだ。

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