今、世界中の話題のトレンドは、新型コロナウィルスから、ロシアによるウクライナ侵攻作戦の報道へと移行しているのが現実です。
本年2月24日、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ東部ドンバス地方での「特殊軍事作戦」開始宣言から二か月。「作戦」とも「侵略」とも「戦争」とも言い切れない「状況」は続いており、しかし現実に無数の民間人や非武装ウクライナ民が虐殺され、国連をはじめ、世界中の非難や経済制裁などを受けても、ロシア軍の進軍は止まるところが見えそうにもありません。

今は世界中の視線が、その結果ウクライナに集まっておりますが、しかししっかり視線を世界中に広げて見回しますと、例えばミャンマーでは、2021年のクーデターから一年、その戦火も収まるところを知らず、同年末には、フラッシュモブによるデモで、参加していた若者が複数、軍部によって殺傷された事態が発生しております。また、もはや懐かしささえ感じる字面のアフガニスタン紛争は、未だ銃撃と爆撃は留まるところを知りません。

つまり、我々人類は、先の世界大戦から70年以上の間、紛争、内戦、どういう言い方をしても戦争は戦争なのですが、その間いっときも、戦争が起こらなかった時などなかったかのように、歴史の教科書が上書きされ続けているのが現状なのです。

さて、私達が子どもの頃、心酔した漫画家に、石森章太郎石ノ森章太郎)氏がおります。

『仮面ライダー』『人造人間キカイダー』『イナズマン』等々、石森氏が送り出す数々の変身ヒーローと、そのメディアミックスのTV番組には、当時日本中の少年たちが熱狂したものですが、このサイトで先日までフィギュアを使ってその表現の歴史を追い求めた、日本漫画界の金字塔『サイボーグ009』は、本当に偉大な作品でした。

その『サイボーグ009』、連載当初こそ『週刊少年キング』の編集意向等もあったため、当時流行していた「忍者漫画」を、空想と科学とサイボーグというタームで置き換えた「抜け忍バトル漫画」でありましたが、石森氏は連載当初から、まるでじっくり捏ねた粘土を人形の形にしていく過程で魂を込めるかのように、その「抜け忍バトル漫画」でしかなかった『サイボーグ009』に、「反戦」という、壮大且つ人類にとって重要なテーマを、そこに込めたのであります。

それは特に初期に顕著で、サイボーグ戦士達の敵組織、「黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)」は、サイボーグを含む、あらゆる戦争用の武器や弾薬などを世界中に売りさばく「死の商人」の象徴であって、その全シリーズにおける前半部分でも、当時火薬と弾薬が飛び交っていた、戦争真っただ中のベトナムを舞台に、サイボーグ戦士達とブラック・ゴーストの戦いが繰り広げられたこともありました。

サイボーグ009『ベトナム編』より

そして(多くのファンがクライマックスと受け止めた)対ブラック・ゴーストの最終決戦『ヨミ編』で石森氏は、ブラック・ゴーストのコンピューターに「私を破壊しても、人類が存在する限り、戦争を根絶することは不可能だ」とまで言い切らせました。

サイボーグ009『ヨミ編』クライマックスより

この『ヨミ編』を以て大団円として、終ったかに見えた『サイボーグ009』ですが、熱狂的なファンのラブコールに応える形で、石森氏は本作品を再開。改めて「サイボーグ戦士達の存在意義は、どこにあるのだろうか」を模索しながら、とうとう対峙する相手を「天使」「神々」の領域に求め、そこへ向かおうと邁進したのですが、石森氏には他にも様々な業務があり、『サイボーグ009』だけに拘り続ける事も出来ず、21世紀直前に、石森氏自身が、009完結編の構想ノートを遺したまま逝去しました。

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