今回は人生初の商業小説に挑戦することになった。
タイトルから、お察しの良い方もおられるだろうから、ジャンルを言ってしまえば伝奇譚小説である。
主人公は、今やアカデミズム的マイノリティになってしまった民俗学の教授、折口裕一郎。
私立大学で細々と民俗学の研究に勤しんでいるが、フィールドワークで赴く先々で、異端の存在と出会ってしまう。
それゆえ、学内では名物教授にされてしまい、謎の相談に訪れる者も後を絶たない。
頭はキレるがお調子者のアシスタント、金城と、ゼミの女子大生宝井と共に、怪奇な事件の謎を追う。
作品は毎回一話完結方式で書かれるが、時系列的には前作の顛末を踏まえた展開もあり、この作品は僕の中では「折口くんシリーズ」と名付けており、若い頃から習作で小説を書く時は、必ず主人公に設定した、いわば東野圭吾氏における加賀恭一郎みたいな存在であり(名前も似てるが名付けたのは僕が先だ(笑))、30年前にはこの主人公と設定でゴジラのプロットを、東宝に送りつけたこともあるほどである。
……という、完全に「どこかで聞いたことがある」設定やワードに溢れた概要解説になってしまうが、おそらく実際に読んで頂ければ、この数行の解説で皆さんが「あぁ」と納得されただろう内容とは、全く異なるエンタメ小説になっていることがお判りいただけると思う。
この小説には、伝説の奇人や古事記、日本書紀に記された、妖怪やモノノケたちが登場するが、そこから先は一切バトルや陰陽師テイストのクライマックスは用意していない。
主人公の折口教授は、それなりの民俗学の教養を蓄えてはいるが、体力的にはひ弱であるし、呪詛や護符や式神などを使えるわけもないただの一般人である。
今回僕が目指すのは「この国の太古からの歴史と向き合うディスカッションドラマ」だ。
群像劇ではないが、概念としてはヘンリー・フォンダの映画『十二人の怒れる男』(1957年)や、大島渚監督の映画『日本の夜と霧』(1960年)の系譜にあり、ほぼ、この手のハコを聞いて期待されるようなアクションもバトルも皆無。
おそらくこれをこのまま、既存の大手出版社から出すとなれば、必ず路線レベルからの徹底変更と、不本意な娯楽要素を求められただろうから今回の上梓となった。