スチレンボードの曲面構成は(建築模型などで手法があるのかもしれないが)、少なくとも筆者自身はその手法を知らないし出来ない。

かといって、全てをケント紙で構成するのは、強度や歪みの発生問題があって避けたい。

それに上記したように、実際のクライマックスではあくまで背景セットの一つであり、それがメインで写り込むようなカットはほとんどない。

なのでいっそのこと、放棄してしまおうかと何度もそう思いかけた。

しかし。

まず、その代々木競技場が劇中で背負った「世界平和会議」という存在が、万国旗と共に本話のテーマを象徴しているわけであり、特撮が本編のテーマと有機的に絡み、補完する円谷特撮を再現する身としては、やはり避けて通ってはならないという、自己陶酔型のプロ意識がそこにあった(笑)

また、特撮監督という身から考えたとき、本話のウルトラマン対ジャミラの戦いの舞台は、セット構築としては非常に淡白であり、いわゆる「メインミニチュア一発勝負セット」なのだ。

いくらメインで写り込むカットが少ないからといって、代々木競技場を省いてしまうと、全くの平地で、延々戦いが続くという、面白みの全くない画像が続いてしまう。

それに、このジャミラとウルトラマンの死闘は、なんとしてでも平和会議を妨害したいジャミラと、それを阻止すべきウルトラマンという構図で生まれている戦いであるので、そのシーンコンセプトのシンボルマークを欠いては、テーマ・ドラマが共に喪失してしまう。

仕方ない、作るしかない。しかしどうする? どうするんだ? と、代々木競技場の写真画像とにらみ合う日々が続いた。その中で、かつて京都国際会館を再現したのと、全く同じインスピレーションがある日浮かんだ。

そうなのだ、筆者はなにも建築模型を作ることを目的とはしていない。

指針とすべきは建築物ではなく『故郷は地球』特撮で登場したミニチュアセットなのだ。

しかも、写りこまない部分までを馬鹿正直に作る必要もない。

そう思いついたとき、少し光明が見えてきた。

曲面はケント紙で作るしかないが、内部にフレーム代わりとして、スチレンボードで多面的に構造壁を組み上げておけばいい。

それをガイドとして、ケント紙を貼り付けていけばいいのだ。

そう解釈して作業に取り掛かると、後は早かった。

(さすがに二年の慣れは無駄じゃなかった(笑))

円形の底面と、中央壁をスチレンボードで組み上げる。

それに沿うように、周囲の円筒形外壁をケント紙で巻くように貼り付けて、そこへやはりケント紙で、曲線・曲面になじませるように、天井を貼り付けて基本構成は完成。

あとは屋根ディティールや窓、正面のポールや吊り屋根の頂点部などを、スチレンボード、ケント紙、プラ棒、プラ板などの各素材で取り付けていった。

最終的にグレー系で全体を塗装して完成。

万国旗はカラープリントした旗を、1mm真鍮線に貼り付けて制作。

競技場周辺の囲いもスチレンボードで制作した。

(競技場ミニチュア写真)

これで完成。

細かいディティールや、全体の曲面接合概念など、かなりの嘘にまみれた立体ではあるが、実際の特撮シーンのミニチュアもそれほど精度が高くないことや、我が再現特撮カットでも、写る角度が最初から限定されているので、高次元で結実していた前衛建築を簡易再現するしわ寄せは、全て見えない部分へ押し込んだ(笑)

一方、本話の特撮シーンラストを飾るジャミラの断末魔。

このシーンを観た誰もが、水に濡れて苦しむジャミラが、泥にまみれながら万国旗に手を伸ばし、やがて絶命してカメラが引いていくラストに、どれだけの子ども達が胸詰まる思いを寄せたことだろう。

そのなかで「泥まみれ」という要素は、ジャミラの最後の心情の真実の描写にも繋がっており、ここをいかにして泥まみれで演出するかというのも、一つのポイントだった。

そこで「じゃあ」とばかりに、本当に泥まみれにしてしまう辺りが、市川大賀の単純なところなのだが(笑)

今回は特撮ベースに板を持ち込んで、その上に園芸用の土を盛って広げる形でセットを構築。

クライマックスでは実際にセットに水を撒き、ソフビのジャミラも泥まみれにしながら、その断末魔を撮影して画像を制作した。

かような選択と方法で、本話の三つのポイントに答えを出したわけだが、それでは、いつものように各カットの解説に入ろう。

冒頭の万国旗から、ビートルによる「見えないロケット追撃」に関しては、上でも述べたが、ジャミラ円盤が使えないため、ビートル編隊によるカットで苦肉の策。

ジャミラが最初に出現するのは、青空背景・緑山・茶土台のセット。

ジャミラが消えた夜に、アランが語ったジャミラの背景説明で、イメージカットとして挿入される宇宙飛行士の写真は、実際の本編シーンでも使われた、旧ソ連の女性宇宙飛行士・テレシコワの写真を使っている。

彼女は、米ソ宇宙開発競争のさなか1963年6月16日にボストーク6号に搭乗。女性にして初めて衛星軌道までの宇宙飛行に成功し、その時のコメント「私はカモメ」は、宇宙時代を象徴する名台詞でとして有名になった。

(ちなみにこの台詞は『ウルトラQ』(1966年)『地底超特急西へ』において、宇宙へ放り出された人工生命体M1号が、ラストに発するオチ台詞にも使われている)

同時に挿入された宇宙ロケット画像は、以前『科特隊宇宙へ』で使われた、宇宙ロケットおおとりのカットを、白黒処理して使用した。

再度現れたジャミラが襲う山村は、最初とほぼ同じセット構築に、Nゲージストラクチュアの農家を並べて撮影。ジャミラが吐く火炎も、農家の炎も合成。

ジャミラがたどり着いた国際平和会議場と、その土台については既に語ったが、人工降雨弾による雨はフォトショ合成。

その雨に苦しむジャミラは、バンダイの食玩「ウルトラ怪獣名鑑2」「故郷は地球」を使用。

ウルトラマンが登場してからは、数カットにわたっての格闘シーン。

代々木競技場しかセットを彩るミニチュアがないことや、せっかく作ったそれを少しでも多くカットに組み込みたいという貧乏性と、ジャミラのソフビが基本棒立ちであることなどから、どうしても単調な画面が続いた。

ウルトラ水流は、もちろんフォトショ合成。

それを発するウルトラマンは、バンダイHGガシャポン~人間標本5・6~のフィギュアを使用。

水に苦しむジャミラが、泥の中でもがきながら万国旗へ手を伸ばして絶命。

ラストのジャミラの墓標は、100%フォトショの描画で、それらしいのをでっち上げた。

本話独特の雰囲気は、ちゃんと再現できたであろうか?

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