大賀 思ったんですけど。この映画でゴジさん(長谷川和彦)組のチーフが相米慎二さんだったじゃないですか。
三留 そう。あと黒沢清さん。
大賀 だからなのか知らないけれど、『太陽を盗んだ男』で、渋谷の歩行者天国の真ん中で、池上季実子演じるヒロインが、公開ラジオのDJをやっている図(実際のロケは新宿住友ビル前)っていうのがあったじゃないですか。あのシーンと、相米さんの『翔んだカップル』で、登場人物の少年少女四人が、原宿から表参道へ向かうダブルデートのロケシーンとが、画面の雰囲気がすごく他の映画と違っていて「あぁ80年代だ」「あぁ、僕の知っている渋谷と表参道だ」と、初めて「スクリーンの中の風景」が、自分の日常の空間とシンクロしたっていう印象が強かったんです。
三留 『太陽を盗んだ男』は、あと、渋谷の東急東横店前と、日本橋の東急前を繋いでいるのね。劇中で大量の札を撒いてみんなが拾うのは日本橋。で、クライマックスの屋上が渋谷の東横。
大賀 例えば『君よ憤怒の河を渡れ』で、高倉健が馬に乗って疾走する夜の東京は、70年代の映画やドラマでさんざん見た「いつもの夜の東京」でしかないんだけど、それからたった3年で、ゴジさんや相米さんが撮った東京っていうのは、まさに僕が中学生のころの渋谷や表参道なんですよね。
三留 自分の知ってる空間と地続きになったっていう感覚は、あの二つの映画にはあったよね。話はそれるけど、池上季実子さんの役は、当初は違う女優さんをアテガキしてたんだけれども、その女優さんに違う主演の仕事が入ったんで断られたんだって。