大賀 映画を一歩離れた位置から眺めていると、そういう話はあちこちで聞きますね。当初予定されていたキャスティングや監督人事だったらどうなっていたんだろうを想像するのも映画好事家の醍醐味で。小松左京原作、ハナ肇とクレージーキャッツ主演、岡本喜八監督の『日本アパッチ族』とか、観たかったなァ……。なんというか、70年代と80年代は、価値観が全く逆になったというイメージですよね。

三留 だって『時をかける少女』原田知世ちゃんだって、「角川映画大型新人募集」ではグランプリじゃないんだよね。

大賀 そう。原田さんは角川春樹がすごく気に入って、審査員特別賞みたいな急遽枠で入賞したんです。グランプリは渡辺典子さん。渡辺さんは、でも、本人のオーラが地味というか、たまたま作品に恵まれなかったせいか、どの主演作品も今一つパッとしないで、角川三人娘では、薬師丸ひろ子さんと原田さんに大きく水を開けられていたという印象が今も強い。

三留 社長(角川春樹)が(原田知世に)惚れ込んだからねぇ。

大賀 だって、同時上映が、監督が根岸吉太郎で、原作が赤川次郎。主演が薬師丸さんと松田優作『探偵物語』だったわけでしょう? それって角川映画的には鉄板コンテンツじゃないですか。

三留 鉄板A面だね。

探偵物語

大賀 そこでのB面『時をかける少女』は、言っちゃ悪いけど、大林監督は『ねらわれた学園』は、失敗作ではないけど、期待されていた数字を上げられなかったという点で、敗者復活戦みたいな立ち位置にあったし、ヒロインの原田知世も、グランプリ女優じゃなかった。でも蓋を開けてみれば、一般顧客層の評価も、映画マニアの評価も、ダントツに『時をかける少女』の方が高いという結果に落ち着いたわけ。

三留 やっぱり、大林さんが撮りたかったのは、『ねらわれた学園』じゃなくって『時をかける少女』だったんだろうなぁとは。すごく思いますね。『ねらわれた学園』はとても楽しんで作っていらしたし、アレもまた大林映画独特の世界だし、近年になって再評価もされてるんですけどね。……うーん『ねらわれた学園』も好きだし、ああいうことが出来る監督は他にはいなかったと思うんだけどね。

大賀 僕が思ったのは、『ねらわれた学園』はすごくお祭り映画なんだけど、『時をかける少女』は、SFジュヴナイルという形を借りて、等身大の少女の描写に向かったことが大きかったと思うんです。昔は80年代というと「しらけ世代」「空洞化世代」なんて言われてましたけど、僕はむしろその言葉は、90年代の『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年 監督: 庵野秀明)とかに当てはまるような気がして。相米慎二の『翔んだカップル』も、大林さんの『時をかける少女』も、すごく少女や思春期の機微を描いた、80年代らしさがよく出ている映画だと思ってるのね。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事