「世界は……腐っている!
この世界は須く是正されねばならない!
しかし! 唐突に世界を統べても、愚民共にはまずついてこれまい!
そこで一国! しかし息切れを回避するため、あえてもう一越え!
これでもう安心!
無理なく世界征服の第一歩!
即ち我々の目標とは――
市街征服!!」
「ハーイル! イルパラッツォーっ!」

『エクセル・サーガ』より

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(全く同じ構図、構成で描かれた、『エクセル・サーガ』第1巻と最終第27巻の表紙)

なんの冗談の声明文だという話にもなるが、まぁ「今回は、そういう漫画の話なのだよね」と思えばどうということはない。
今回紹介する『エクセル・サーガ』は、少年画報社『ヤングキングアワーズ』で、1996年から2011年まで15年間連載されていた漫画である。
ジャンルは何かと問われれば、連載当初は「ちょっとトンデモな、アルアルSFパロディネタ満載のギャグ漫画」であったのだが、15年間の連載の変節を経る先で、いろいろ作者の六道神士氏による、スケベ心や大河ロマンサーガへの傾倒などが噴出してきて、最終的には「ごちゃごちゃ裏設定やら謎設定が出たり入ったり忙しく飛び交い始め、挙句には同じ作者の別作品漫画を前提にした設定が混入してきてしまった挙句、深読みをすればいくらでもできる上に、深読みし過ぎれば泥沼状態になる展開に陥ってしまいつつも、最後の最後は力技で、なんとか綺麗に着地した、長期連載オタク向け漫画では珍しい逸品」と言えるだろう。

『エクセル・サーガ』と『県立地球防衛軍』

当初の、基本コンセプトは明確だ。
筆者の漫画書評のワンパターンだが、少し“いつもの書き方”をしてみよう。

「時は現代。舞台は日本の北九州の某県。ざっとした内容は、テレビの子ども向け特撮やアニメでよくある、“悪の秘密結社VS正義の防衛隊”というルーティンなのだが、事実上の主人公は、悪の秘密結社側で、最高指導者の真下で頑張る女性幹部の少女。毎回毎回、世界征服よりまずは地元征服とばかりの掛け声で、ドタバタ騒ぎが続くだけで、正義の防衛隊の方もやる気はゼロに等しい。九州のローカルネタが随所に散りばめられていて、特撮やアニメ、SF漫画のパロディギャグも満載で展開するお気楽漫画」

本書を知らずに、この解説を読んで「え……それって確か、30年以上前に、読んだ記憶がある漫画の設定じゃ……」と思った、そこのあなた。はい、あなたの記憶はとても正しいです。むしろ正確です。

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筆者が過去にここでの漫画書評でさんざんやってきた、模倣や企画の相似形の指摘ではないが、おそらく、こうしたハコ(企画の概要)自体が、90年代では既にジャンルと化しているところもあったのだろうが、今、上で書いた『エクセル・サーガ』のハコは、本作連載開始よりさらに遡ること13年。1983年から2年間に渡り、『週刊少年サンデー増刊号(小学館)』で、安永航一郎氏によって連載されていた伝説のカルト漫画『県立地球防衛軍』のハコと、まんま同じで構造が成り立っているのだ。
そこで、テレビドラマ版『ガリレオ』での、福山雅治氏演じる湯川学のように「実に面白い!」と思えてしまうのは、“悪の秘密結社VS正義の防衛隊”のパロディギャグという骨子だけであれば、近年では『天体戦士サンレッド』や、『非公認戦隊アキバレンジャー』(2012年)など、漫画でもテレビドラマでも枚挙に暇がないが(そういえば、『県立地球防衛軍』の頃の少年サンデー本誌でも、ゆうきまさみ氏の漫画『究極超人あ~る』の劇中メタフィクションで、『究極戦隊コウガマン』なんてネタもやっていたものだ)、『エクセル・サーガ』と『県立地球防衛軍』の数奇な一致は「主人公は悪の組織の女幹部少女」「舞台は九州某県に限っており(たまに県外に出る話はあるが)、九州ネタのギャグが散りばめられている」の、この二つの要素に限ると、これらを偶然の一致として処理するのは難しい。
もっとも、双方の作者がそれぞれ九州出身なので、作者ご当地ローカルネタで自然と被ってしまったといえばそれまでなのだが。

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メインヒロインのエクセル(右)とハイアット(左)

しかし、正統派の防衛隊VS悪の組織のパロディに徹していた『県立地球防衛軍』が80年代ゼネプロ的特撮オタクパロディだったのと比較すると、『エクセル・サーガ』は90年代的、というと少し表現がふわっとし過ぎだが、こちらは市街征服などは二の次で、毎回毎回「資本主義経済の実態調査」などの目的で、結局やっていることはバイト三昧。
本作の初動の頃のコンセプトは、ひたすら仰々しいお題目とミッションを序盤で掲げながら、ヒロイン・エクセルとサブヒロイン・ハイアットが新たなアルバイト先に出向き、そこで起きるドタバタと、支配者目線でボケやツッコミをかますエクセルと、すぐ死にかけるハイアットによる、何事にも動じない組織『アクロス』の王・イルパラッツォへの忠誠心を中心に展開する、ドタバタギャグのみであった。

やがて、アクロスの敵として、絶大に謎な資本力と権力を持つ、マッドサイエンティスト(みんな、こういうの好きだなー)が現れ、公務員を集めた『市街安全保障局』要するに御町内戦隊を立ち上げて、さらにドタバタのバリエーションが増えていき、そこで登場する疑似科学のガジェットは、女性型アンドロイドであったり光線銃であったり戦闘用強化服であったり、果ては戦隊のリーダー格であった青年が病死した後、無理矢理サイボーグとして蘇らせたり、その辺りはオタク向けSFパロディギャグ漫画としては、テンポも良く、ギャグのキレも良く、作品もそこそこヒットして『ヤングキングアワーズ』の看板作になっていった。

代替テキスト
『市街安全保障局』 の面々

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