『アイアンキング』でデザインワークスを担当したのは池谷仙克氏。
 池谷氏は『ウルトラセブン』(1967年)後半からウルトラシリーズでの怪獣・宇宙人を担当し、『帰ってきたウルトラマン』(1971年)序盤ではタッコングやツインテールを生み出し、その後は日本現代企画の『シルバー仮面』で全話のヒーロー、宇宙人をデザインして、『アイアンキング』でも全てのデザインを手がけきった。
 池谷氏によれば、今回のヒーローは独自のアイディアで練り込んであったのだが、プロデュースサイドから「子どもに受ける赤い色のヒーローにするように」と言われ、開き直ったかのように「シルバー仮面とウルトラセブンを足しただけ」デザインに変更。元々ヒーロー用にと暖めていたアイアンキングのデザインは、細部だけを変更して、第一話に敵ロボットとして登場するバキュミラーで流用されている。
 『アイアンキング』では、不知火一族編では人型ロボット、独立幻野党編では正統派恐竜型怪獣、タイタニアン編では昆虫型怪獣と、3シリーズに分けてコンセプトを変えた敵キャラが主人公コンビと戦うという設定であった為、デザインワークもバラエティに富んだものが要求される(中には独立幻野党編に登場したジュラスドンのように、池谷氏が過去にデザインした『帰ってきたウルトラマン』タッコングのセルフリメイクのような例もある) 。

 そんな池谷デザインのキャラクター達の造形を担当したのは、初期ウルトラシリーズで怪獣造形の神様と崇め奉られた高山良策氏。
 70年代の高山氏は、まずはピープロの『スペクトルマン』で怪獣造形を担当し、『帰ってきたウルトラマン』でグドンとツインテール、ステゴンの三体だけ造形しつつ、一方で『シルバー仮面』『アイアンキング』で日本現代企画・池谷仙克デザインの宇宙人や怪獣の造形を担当し、『アイアンキング』終了と同時に、円谷プロ10周年記念劇場用オリジナル怪獣映画の『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』(1972年)に登場する三体の怪獣と、同じく円谷プロ10周年TV『ファイヤーマン』(1973年)の怪獣を手掛ける大車輪状態だった。
 しかし稀代の芸術家・高山氏をもってしてもこの繁忙期に、初期ウルトラ並みのクオリティは保てず、所謂「高山目」だけは生きているものの、『アイアンキング』から『ファイヤーマン』時期までの怪獣はどれもこれも、アクション演技への耐久性と、コスト優先の仕上がりに終始してしまっていた。
 だがシリーズ中盤で登場した首長竜恐竜タイプのトンガザウルス等は、本家円谷のウルトラ怪獣でも(首や尻尾の操演の難しさから)敬遠されたタイプの怪獣で、そこへ果敢にチャレンジし、見事に一定レベルの造形とアクション性を兼ね備えさせた高山良策氏の怪獣造形能力は、この時期まだまだ抜きんでいたと言えるだろう。

 特撮に関しては、『マジンガーZ』人気に対抗するため、中盤以降都市戦闘シーンを強化。円谷プロで長年カメラマンを務めてきた鈴木清氏や、同じく長期に渡って助監督を務めてきた山本正孝氏等が特撮監督を担当し、古巣から高野宏一氏も招いて、堅実な特撮表現を見せた。『アイアンキング』はウルトラシリーズには到底かなわない低予算作品なので、大掛かりな都市ミニチュアセットを出す事が出来ない。広大なセットを埋め尽くすビルや都市のミニチュアが用意できないからだ。しかし、『シルバー仮面』後半からの日本現代企画の特撮は主に、セットの両サイドを縦並べでミニチュアのビルで埋めて、真ん中に大きめの道路を配置。そこに怪獣を配置することでセットの奥行きを活かし、予算の低さを補う画を作った。

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 もちろんそんなセット構造では、ウルトラのような派手な戦闘アクションは展開できないが、『シルバー仮面』『アイアンキング』で、特撮で都市部が描かれるのは、概ね序盤での、敵のロボットによる破壊工作と大暴れのシーンであり、クライマックスのバトルは、殆どが荒野や山岳地帯のミニチュアセットで繰り広げられた。
 それは逆に、筆者のようなマセガキが当時ウルトラシリーズに抱いていた「ウルトラマンと怪獣が戦う時だけ、都会のど真ん中に広がる『ウルトラ広場』」への、興醒め感やガッカリ感を味あわせない効果を副次的に生み、それなりの効果を上げていた。

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 光学合成でも、どうしても合成カットは経費がかさむし熟練した技術が必要なので、序盤はアイアンキングはキックや格闘を主体にして戦い、敵ロボットのトドメは、弦太郎が(主に敵巨大ロボットを操っていたテロリストが手にしていたコントローラーを、アイアンベルトで奪い取り破壊して自爆させる手法で)最終的に敵ロボットを倒すルーティンが主流であった。
 アイアンキングはあくまで主人公の弦太郎をサポートする役であり、その実力も決して「強くて無敵の巨大ヒーロー」とはほど遠く(活動時間がそもそもウルトラマン達とは比較にならない程短い「1分間」しかない)毎回最終的に敵ロボットを倒すのはアイアンキングではなく弦太郎の方なのである。
 アイアンキングが自力で敵ロボットを倒すのは、第16話『トラギラスを倒せ!』の怪獣ロボット・トラギラスが最初になるのだが、シリーズ中盤以降は、光学合成も多少取り入れて、簡素ながらアイアンキングは光線技も披露することになる。

 つまり物語的にも活劇的にも、メインで主人公として活躍するのは静弦太郎の方なのだ。
 弦太郎は「アイアンベルト」と呼ばれる武器で戦うスタイル。アイアンベルトは、状況に応じてフェンシングのような剣状態と、巨大なロボットの動きさえも止めて弱らせることが出来る、鉄の鞭状とに変形が可能で、弦太郎は常にアイアンベルトを手にして、迫りくる敵を打ち倒していくのだが、筆者達の少年時代、既に子ども達のチャンネル権は『マジンガーZ』へ移っていた筈なのに、ズボンのベルトを外しては、アイアンキングごっこ(というか弦太郎なりきりごっこ)を、休み時間になるとはしゃいで興じる少年が多かったのを記憶している。
 そういった「数々の『ウルトラマン的特撮作品フォロワー』作品群」とは一線を画し、佐々木氏による、佐々木氏でしか出来ない独自性を打ち出し続けた『アイアンキング』。
 しかし「『ウルトラマン』的な怪獣番組としての脆弱さ」を補って有り余る「70年代のテレビ娯楽の面白さ」が幕の内弁当のようにぎっしり詰まったのがこの『アイアンキング』であった。

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「お茶の間にも自然と反体制を容認する視点があった時代だったんだ。たとえメチャクチャだろうと……。そういう意味じゃ、今はメチャクチャじゃないもんね。結果的には、こうした作品を書いていた時期はよかったですよ」

『夕焼けTV番長』「佐々木守インタビュー」岩佐陽一

次回「佐々木守論「『アイアンキング』(1972年)が戦った時代【前編】」」

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