とにかく、まずは人選がヤバすぎた

 まずは監督人選だが、当時の東映にまともなスケールの映画が撮れる人材が、他にいなかっただけなのか、それとも10年も前にアメリカとの合作で『ガンマー第3号 宇宙大作戦』(1968年)なんていう映画を監督したからという理由で「SF映画監督の経験アリバイあり」なのだという経歴を売りにする、まるで「消防署の方から来ました」レベルでの人選なのか、まぁ多分両方が理由なのだろうが、そこでの監督は深作欣二に決定された。 ちなみにそんな流れで監督を請け負った深作氏は、この作品が「誰がどの角度から何処を見ても『スター・ウォーズ』の安いバッタモン」にしか見えない件について「それはただの偶然だろうさ。だってそもそも俺の組のスタッフに、『スター・ウォーズ』を観てる奴は一人もいねぇ」と、いけしゃあしゃあと言い切った。
 そのあからさま過ぎて、聞いてる側が恥ずかしくなるレベルの嘘が通用するのなら、Paul Verhoeven以下の『ロボコップ』(1987年)スタッフが、誰一人として『宇宙刑事ギャバン』(1982年)を観ていないと言い切っても通用するわけであり、ある日突然Dan O'BannonGeorge Andrew Romeroっていったい誰のことだい? そんな大道芸人にはまだ、NYのストリートではお目にかかったことはないね」とか言い出しても通用するレベルの話になってしまう。

 要するに(深作監督という人は、ではなく)深作監督が所属する東映という会社はつまり「そういう会社なのだ」ということである。
 いやもしかすると、実際の作品は本当に観ていなくて『スター・ウォーズ』の全ての要素を「伝聞で聞いただけで理解した気になった」から、このような作品に仕上がったのかもしれないという可能性は、否定できない。

 特撮監督の方は、当時東映の子ども向け特撮ドラマの特撮を全て手がけていた矢島信男
 この映画の直前までは、諸事情でテロップに名前が書かれてない作品が多かったが、この作品以降、テレビのクレジットタイトルででも堂々と名前を出せるようになり、それまでの鬱憤晴らしか、鬱屈した復讐心ゆえか、その後20年近く、東映の子ども番組のエンディングテロップでは定型文のように「特撮監督・矢島信男」がクレジットされ続けることになる。

 毎週毎週、放映される東映特撮子どもドラマの「特撮監督」クレジットが、全て矢島信男名義になっているという現実を前提にして、冷静に仕事量を考えれば、同姓同名が4人はいないと、こなせる本数ではない計算になり、後の特撮マニアの間では矢島は「泥酔状態で現場に現れては、数分で去っていく人」と呼ばれるようになるのだが、真偽のほどはともかくこれに関しては、内情を知る者からすれば「だって所属会社が東映なんですもの」としか言いようがない。

 そして、安っぽい画面と特撮を、無駄に壮大なスケールに錯覚させるべく楽曲を作曲して担当したのは、加山ブラックジャック雄三『君といつまでも』(1965年)など、数々の歌謡曲を編曲していた森岡賢一郎。しかし森岡氏のスコアはどこからどう聞いてもEnnio Morriconeのパクリにしか聞こえない。森岡氏ほどの大家がこんなバレ易い箱で、安易なパクリを自主的にやるとは考え難く、ひょっとすると東映ならではの「俺達がパクリをするんやから、お前も何処かからパクってこいやぁ。そうすれば、俺もお前も、みぃんなパクリ屋で、共犯やさかいなぁ」的な、遠まわしな作為がそこに、存在していたのかもしれない。

 一方肝心の主役には、まだまだ無名に近い若手のアクション俳優だった真田広之を抜擢。そして真田が出てくるのだから、当然そこでのヒロイン・王女役は志穂美悦子に決まる。「あの『女必殺拳シリーズ』のアクション女優が王女役?」と、誰もが当時は思ったが「まぁアクションシーンが無いなら、美貌はあるしそれもアリかな」とも思うわけで、しかし、そういう角度における納得は、本編では微妙に裏切られることになる。

『女必殺拳』が「姫」の時点で察するべき。いやこの頃のエッちゃんは美しいが

 そして「真の主役(そう、真田はいわゆる「偽装主役」だった)」。真田・志穂美の二人が顔を揃えるのだからもちろん我等が千葉真一(よぅ大統領!)が出てこない訳が無い。その、千葉真一の役柄は「白馬に跨って登場する宇宙の王子様(その名もハンス)」だ。

王子って……。王子て……

 ちなみに当時千葉は38歳。不惑を二年後に控えていた状況。
「38歳千葉が白馬」「38歳千葉が宇宙」「38歳千葉が王子様」どれも無理がある。
「生クリームとメイプルシロップをかけたパンケーキ」は確かに魅力的なスイーツだが、「食べるラー油と生クリーム」「食べるラー油とメイプルシロップ」「食べるラー油とパンケーキ」は、どれもただの罰ゲームのアイテムに過ぎないのと同じだ。

 そして『スター・ウォーズ』におけるダースベイダーに当たる「悪役のラスボス」は、『探偵物語』(1979年)の「服部さん」こと成田三樹夫が、甲冑に顔面銀塗りで挑んでる。

もはや安藤三男かってレベルの子ども番組悪役メイクで、誰なのかが見た目では分からない

 ここまでのキャスティングは明らかに、この映画の直前に東映で公開されていた深作監督のアクション時代劇『柳生一族の陰謀』(1978年)と被るのだが、要するにつまり「そういうこと」なのだ。
「この連中」はスペースオペラとかSFとかって単語を聞かされてもその意味性の欠片も理解できないものだから、とりあえず「手元にある『スター・ウォーズ』の資料」に見える、宇宙船だの甲冑だのといった「皮」だけを、自分たちが延々と作り続けてきた「任侠時代劇実録ヤクザ映画てんこ盛り」の鍋の外壁に被せて放り投げたのだ。 冗談じゃない、冗談なんかこの流れで言えやしない。

 まず、なんつったって物語のベースが「南総里見八犬伝」だ。
 どう見ても「透明FRPかアクリルで複製した胡桃」にしか見えない「リアベの実」とやらが八つ宇宙に飛び散って、宇宙の悪魔・ガバナス帝国を打ち破る、愛と平和の戦士を八人選び出すという基本設定が、既にもはやヤバ過ぎる

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