いやいや、何が言いたいかというと。
 ちょっといろいろ縁が重なり、今回僕と繋がりがある声優さんが、その『膝枕』のClubHouse朗読枠をやるという。いや、そりゃ晴れ舞台だ。俺も聞きに行くから頑張れよという話になるが、どうやら俺は聞いてるだけじゃすまなくなったらしい。
 
「今の『膝枕』ウェーブは凄いんです! 腕に覚えのある人は、そのまま朗読するだけではなく、アレンジやスピンオフ新作、ほぼオリジナルに近い作品まで作り、幅広く皆で盛り上がっているんです!」
 
 うん、それはとても良好な環境である。だからガンバレ。
 
「なので、ぜひ大河さんも参加しましょう!」
 
 いや……その……。俺は確かに、学生時代に部活動で演劇をしていたし、知り合いの監督さん達から呼ばれて、エキストラ以上、役あり以下みたいな立ち位置で、何本か映画とかに出演しているけれども……。
 
「違いますよ、大河さん。誰が大河さんに『膝枕』を朗読しろなんて言いましたか。大河さんの朗読なんか聞くぐらいなら、落語のCD聞いてる方が、まだナンボかメリットがあります。大河さんはなんですか? いつの間に声優になったんですか? アナウンサーですか? プロの声楽家ですか?」
 
 ……いえ、一介の物書きでございます、はい。
 
「でしょう? 物書きなんだから書いてください。大河さん流の『膝枕』のアレンジ作品を。書いてくれれば私がそれを、改めてClubHouseで演じます!」

 ほほう。そうきたかァ!
 しかし、改めてそういう視点でとらえ直すと、『膝枕』は、極めて女性作家さんならではの視点と実力で、謎の物体に「女性らしい生々しさ」が籠められている傑作である。むしろ、そこがこの作品のリアルさでありテーマでもあり、シュールな出来栄えに繋がっているのだ。
 一方で、一応これでも大河さん、プロの物書きではある。しかも「声優の朗読劇」というジャンルとあれば、かつてニッポン放送で、新人時代の根本流風高木友梨香などをまとめた声優メンバーで、朗読劇『カミサマ未満』を、企画・脚本・演出した経歴もある。
 よし、じゃあ挑戦してみよう。
 
 書けと言われれば、書けぬものなどないのがプロ魂である。
 せっかくアレンジをするのだ。アレンジ元の原作を因数分解して、この子の演じ方や引き出しに合わせて、作品全体を「アテガキ」にすることをまずは決めて作劇にとりかかる。その上で、俺の悪い癖である「生身の女性をどこまで描けるか挑戦します」病が発症(笑)
 それとは別に、元作品のディテールや展開には、ちゃんと敬意を払って忠実に、しかしそれらの立ち位置を、ほんの少しだけずらさせて頂いて再構成。その上で「あえて元作品を弄った意味」に明確な裏付けを築かなければいけない。
 良くも悪くも、演じる本人はそこまで考えてはいない。というか、演じる人にそれを考えさせてはいけない。
 その上で「この物語、このあとどうなっちゃうんでしょうね」という、今井氏がプロットを提出した先のコンテンツの「まるで決まりごとのような終わり方」を、あえて力業で変えてみせて、決め打ちで着地させる方向で舵をきる。
 大河さん唯一の、物書きとしての弱点が「放っておくと尺が長くなる」なのだが、今回も、元作品が5千文字弱だったのが、僕の作品は結局6千文字までいってしまった。
 
 えぇい! 芝居の尺なぞ、いざ演じてみなければ分かるまい!
 
 見事な開き直りで(だってもう、削るところないんだモン的な)、ラストまで一晩で書き上げる。
 ……で、翌日「いつもの」推敲作業をして脱稿。声優さんに渡して、根本的なところで、声優さん本人から見て、当初自分がやりたかったものと大きなギャップがないかどうかを、チェックしてもらったら、はい、それで俺のお仕事は終了!
 
 後は野となれ山となれ。今回ばかりは、脚本を書くだけで、演出までは請け負ってはいない。あとは完成品から一番遠い立ち位置の「ホン屋さん」として、完成朗読を楽しませていただきやす!
 これが「プロの仕事」だ。この場合は「完全犯罪」とも言うが。
 今回俺が唯一拘ったのは、俺が唯一ドラマの師匠と仰ぐ、山際永三監督のポリシー「表現は狂気だ」である。
 ドラマだ小説だ、映画だ漫画だ、そんなものが事実であるわけがなく、嘘八百、ほら吹きドンドン、人が生きていく日常では決して味わうことが出来ない「狂気」を、思う存分「ツクリモノ」の作品表現で味わってもらうこと。
 
 というわけで、今井雅子『膝枕』原案 市川大河・作 そらぺち・演 『石枕』
 
 ClubHouse「膝枕リレー」roomにて、10月2日午後2時より、公演といたします!

「ClubHouseは敷居が高い」「ClubHouseの使い方が分からない」という方も、今はandroidスマホでも対応していますので、ぜひアプリをインストールして、リンク先のroomまでお越しください。
 
 なお、上演後は、拙筆によります『石枕』は、まず当サイトで公開。その後、今井雅子氏のnoteの、『膝枕』バリエーションアーカイヴに掲載される予定です。

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