――僕はここは評論連載でも書こうと思ってるんですけど、『逆襲のシャア』って、最初の『ガンダム』の劇場版三部作から、途中の『Zガンダム』『ガンダムZZ』を観ずに観る人にも、分かりやすい構図で作られているんですよね。シャアはちゃんとジオンで赤いモビルスーツに乗っていて、アムロはちゃんと連邦軍で、ブライトの艦でガンダムに乗っているという。ガンダムに浅い人にも、メカの区別もとても分かりやすい。そこはやはり、出渕さんのデザインワークスの力も大きかったと思うんです。
出渕 そうですね。あれはそういうつもりでやりましたから、『Zガンダム』とか『ガンダムZZ』なんかの(モビルスーツデザインの)、たくさんディテールがついている感じじゃなくて、もうちょっとシンプルに、昔のイメージに戻すというのはありました。Zガンダム(自体のデザイン)は、ガンダムの進化系としてはすごいアリだとは思ってるんです。まぁちょっとウェイブライダーに変形するのはどうかと思うんですけど。まぁそれは(富野監督が)イイトシして当時の風潮の、『超時空要塞マクロス』(1982年)を潰せと思ったんでしょうけど(笑) ただ、僕がνガンダムで、一回最初のガンダムに引き寄せちゃったんで、その後のガンダム(のデザイン)がそこの縛りから抜け出せなくなっちゃった気がするんです。Zガンダム的な翔び方が古くなっちゃったのは、少し僕の功罪かなと思っています。顔の問題なんですよね。Zガンダムって(口元の)スリットもないし、もっと顎のラインもスマートだし、若干悪役面だし、いろいろ後のガンダムの定型と違うんですよね。だから『ゲッターロボ』(1974年)ってあるじゃないですか。あれがゲッター1がドラゴンに代わって、かなり格好よくなりましたよね。でも結局『ゲッターロボ』っていうと、またドラゴンが悪役になったりするOVAがあったり、初代ゲッターに戻ってきてるよなって思うんですよ。僕なんかドラゴンが好きなんですけど、なかなか「そっち」に戻ってきてくれないんですよね(笑) 『ゲッターロボ』のOVAが新しくつくられるたびに、ドラゴンのデザインが新しくなったり、ドラゴンが主役になったりしないで、初代になっちゃうじゃないですか。だから、それと近い物を(ガンダムのデザイン歴史変換に)感じるんですよ。ガンダムZZのデザインが、もっとZガンダムの進化系だったらよかったんだと思うんですけど、ガンダムZZは顔だけ初代の風貌に戻っているじゃないですか。まぁあと『逆襲のシャア』で、リ・ガズィっていうのを出しちゃったんで、簡易版Zガンダムみたいなのを。あれが良くなかったのかなと。いや、あれはあれでアリだとは思うんだけども。でもああいう顔は、主役ではなく脇役になっちゃったっていう。そういう意味では、その後のガンダムのデザインの幅を狭めてしまったかもしれないという自戒は若干あります。ただ、あの時はアレで良かったと思うんですけれども。でも、(『逆襲のシャア』デザインワークス全般が)時間なかったんだよね……詰め切れてないんですよアレ。サザビーが最初、コクピットが胸にあると思ってデザインしていて、実は頭にあると聞いて「えぇー!?」って。ただ全体像のシルエットで言うと、サザビーって顔が小さいんですよちょっと。
――近年のガンプラのMGやRGなどのサザビーでは、脱出ポッドが頭部に収納されるのではなく、脱出ポッドの周囲に頭部装甲が貼りついてるアレンジで整合性をとっていますね。
出渕 僕は後で大反省ですよアレは(笑) 時間なかったんで。だってアレ(脱出ポッドの大きさ)でやると、サザビーの大きさってサイコガンダム以上になりますからね。
――富野さんのコンテの問題だったのかもしれないですね。
出渕 いや、僕がちゃんとコンテを見てなかったのかもしれないです。頭部UPのサザビーの設定も描いたんですけど、その時の絵面優先で描いちゃったんで……今やるんだったら(コクピットを)顔というか、首に入れますね。首に脱出ポッドを入れて、もうちょっと首を太くして……うーん、どっちにしてもこれ(脱出ポッド)をこうして(νガンダムが両手で抱えて)持ってて……。どうしても無理か。それで殴り合ってますからね。サザビーがちょっと大きいとしても。
――でも、『逆襲のシャア』のメカニック演出を見て、当時安心したのは、ジオンの量産型はちゃんとザクっぽいし、シャアは赤いモビルスーツに乗って登場するし、今話題になったサザビーのコクピットが頭部にあるのだってジオングの踏襲だし、アムロのガンダムはちゃんとガンダムで、ようやくガンダムらしい画に戻ってきたかなと。
出渕 とりあえずサザビー(の頭部)は、角も含めてシャアのヘルメットですから。サザビー作った時、ヘルメットの部分だけ白くしてみないかなって思いましたね(笑) でも、ありがたいことに、ギラ・ドーガにしても、ジェガンにしても、その後息の長い機体にしていただいて、その時のスタンダードを作れた、再構築させてもらえたというのは良かったですけどね。