前回は「出渕裕ロングインタビュー9 出渕裕と「富野由悠季の娘」と「うわべのパブリック」と」
出渕 そういえば話が変わるんですが、安彦さんと富野さんが、決定的に(袂を別つことに)なった原因って、なんだか知ってます?
――いえ、知りません。両者の間で何があったんですか?
出渕 『クラッシャージョウ』なんですよ。『クラッシャージョウ』やってるときに、安彦さん同時に『巨神ゴーグ』(放映は制作完了後の1984年)やってましたよね。『クラッシャージョウ』のプレミア試写会みたいなのがあって、僕も行ったんですけど、なぜかね、入り口のところでお客さんをお迎えしているのが何故か富野さんなんですよ。
――普通であれば、当然監督の安彦さんか、原作と脚本の高千穂遙さんですよね、そこは。
出渕 普通はね。でも安彦さんいないんですよ。で、その最中安彦さんが何をやってたかと言うと、近くの喫茶店で『巨神ゴーグ』のシナリオの打ち合わせを脚本の辻真先さんとやっていたらしいんですね。初監督作の試写会場に当人はいなくて、その頃、富野さんは試写会に来た人たちをスタッフでもないのにお客さんをお迎えしてるわけです。それまでは、安彦さんと富野さんの関係は良好だったんですよ。だから初期のロマンアルバムとか見ると、すごいツーカーでインタビューで彼(富野監督)をちゃんと理解できるのは僕くらいしかいない、的な話をしてたりするわけですよ。
全く、あれよあれよといううちにあれ(引用者註・ガンダムのキャラクターデザイン)は出来てしまったのだった。持ち寄られた個々の自由なイメージが、富野氏を中心にまるでモザイクパズルのようにくっつき合い、カタチになってしまった――そんな気分だった。
徳間書店『ロマンアルバムエクストラ 機動戦士ガンダム Motion Picture』「僕とアムロたち」より
出渕 試写会が終わって、安彦さんが『クラッシャージョウ』の感想を聞きたくて、ルンルン気分で富野さんのところに行ったんですよ。「富野さん、どうでした?」って。でも富野さんは、なんていうか礼儀とか挨拶とか、そういうマナーにも実は厳しい人だから、「お客さん迎える時に、監督のお前がいなくてどうする! プロ意識が足りない! 監督失格!」みたいに、まずそういうところから毎度のことながらドーって言っちゃって。あ、そういうとこはマナーがなってないか(笑) そんな風に突然富野さんにキレられて、安彦さんもカーッてきちゃって喧嘩になっちゃったらしくて。で、実は温和な外見とは裏腹に安彦さん腕っぷしが強いんですよ。サンライズの中で腕相撲をやると、安彦さんが一番強いんじゃないかって言われてたぐらいで。安彦さんって、北海道出身で農作業なのかな、詳しくは知らないんですけど身体動かして自然に鍛えられていたみたいで。そんな安彦さんですから、富野さん「このままだと、僕は安彦にビルの窓から放り投げられてしまうかもしれない」って生命の危機を感じたらしくて(笑) そんな事があっって、多分そこからどんどん(両者の関係性が)おかしくなっちゃったんですよね。