――そんなことがあったんですね。出渕さんは、安彦さんの『機動戦士ガンダムORIGIN』をどう捉えてらっしゃいますか? 僕は私見ですけれど、当初は安彦さんが入院中に、病院のベッドの上でテレビ版を丁寧になぞっていたネーム作劇が、テレビ版の第8話『戦場は荒野』を再現したあたりから、どんどんパラレルの方向にいってしまい、その過程でコンテンツ全体が、大きなプロダクツに組み込まれた印象を抱いたのですが。

機動戦士ガンダムORIGIN 』安彦良和

出渕 どうなんでしょう。多分、安彦さんには安彦さんなりの『ガンダム』解釈があったんだと思うんですよ。ニュータイプとか、そういうガジェット的なものに懐疑的だった気がするし、やってくうちにキャラクターが主張し始めるのは漫画とかやってくとこではよくある話ですし。元々『ガンダムORIGIN』 誕生の仕掛けをしたのは、あれはサンライズ社長(当時)の吉井(孝幸)さんだったんじゃないかな。吉井さんは安彦さんと、サンライズの中ではある程度話が出来る人だったんで、吉井さんとしては先々残るサンライズの財産として、最初の『ガンダム』をキチンと残していくことを考えていたのじゃないかなあ。それで、誰もが納得するリメイクは(富野さんが固辞しているのであれば)安彦さんしかいないと考えた結果なんじゃないですかね。安彦さんとしては……ずっと『ガンダム』は固辞してたと聞いていたんですけれども、そこを吉井さんが説得していった感じかな。「病院のベッドの上で」っていうのは、僕は今初めて聞いたんでよくわからないです(笑) 今回のはTV版以前の前史なわけですけど、安彦さんの、虫プロ時代からの癖というか「手塚的な変顔ギャグ」とか「映画的でない不思議なカメラワーク」が映像化したものにも手癖として出ちゃってるんですよねえ。『クラッシャージョウ』からの監督作品でも入れてきてますから。あのカメラワークは、多分アニメーターとしての「動かしたい欲求」だと思うんですけど、映画としてはどうも居心地が悪い感じがして。ボク個人の理想は『ORIGIN』の監督を映画的な感性で富野さんがすればって気がするけど、二人共それは良しと絶対しないだろうからなあ。やっぱり、安彦さんは富野さんと組んでる方が良かったんだと思うんですよ。「手塚的ギャグ」の話に戻ると、安彦さんはキャラシートの表情集で崩し顔とか結構描くんですけど、富野さん絶対使いませんからねアレ。でも、それが正しいんです。だけど安彦さんは自分で監督すると、『ORIGIN』でもアレを多用するでしょう? アレ、ダメなんですよ、リアル系のでやったら! 昔の漫画っていうか、これが『ろぼっ子ビートン』や『クムクム』ならいいと思うんですよ。『ろぼっ子ビートン』は、メインキャラは吉川さんがデザインしてるんだけど、後はネンネンとかその辺は安彦さんなんですよね。そういったジャンルでなら、崩し顔も効果が出るんですけどね。でも『ガンダム』で使っちゃいけないよなあ、というのはあります。あ、そういやあ『ろぼっ子ビートン』で、安彦さんが描いた設定で、「劇中で、ガキオヤジが読んでいる少女漫画」っていう設定画があって、その表紙に「作者・音蓑良子(オトミノヨシコ)」って書いてあるんですよ。

――そうか。富野さんもコンテや演出で参加していたから「お富野由子」なんですね(笑)

出渕 微笑ましいと言うか。当時はどんだけ好きだったんでしょうね、富野さんのこと(笑)

次回「出渕裕ロングインタビュー11 出渕裕とCGアニメと『ヤマト2199』と」

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