ちなみにこの回の脚本を書いた宮田達男氏は、当時は日活系の脚本家であり、本話と同時期にフジテレビで大人気ドラマだった、ホームドラマ『お嫁さん』(1966年)の脚本などを手がけているが、その宮田氏は、金城氏や上原正三氏などと同じ沖縄出身の作家であった。

1966年当時、まだ沖縄は外国扱いであり、沖縄出身者達は共に繋がりあって力を貸し合ってた状況を考えると、空想特撮テレビ映画であるウルトラに宮田氏が参加したのは、やはり金城氏とのシンパシーがあってのことだと思われる。

しかし、そこに一人の外野作家が現れる。

その作家とは佐々木守氏。

佐々木氏は、金城氏の持つ、そのセンチメンタルな「怪獣と子どもの同義性」に、根底から疑問を投げかけたのである。

現代に生きる子どもの、メンタリティを末端肥大化していったときに、果たしてそれは怪獣としての存在性を満たすだけの要素があるのだろうかと。

子どもが己の内なる破壊願望や暴力性、そして狂気を具現化させた存在こそが、怪獣であるのだという解釈は、実はそれは願望的なロマンチシズムでしかなく、実は現代の日本に生きるような甘えた存在の子どもなどからは、どこをどう叩いても、せいぜいが怠け者の居眠り生物しか、産み落とすことなど出来ないのだという投げかけこそが、『恐怖の宇宙線』に登場するガヴァドンなのではないだろうか。

鬼田がギャンゴを産み落とせたのは、被差別者としての怨念があったからであり、しかしそれですらもギャンゴはいたずら小僧の域を出ない程度の怪獣であった。

人の内なる闇と怪獣の関係性は、金城作品とは別の道を辿った佐々木作品が、やがてジャミラという形で、視聴者の前にその闇の奥深さを見せ付けるのである。

次に本話で登場する怪獣ギャンゴについて少し考察してみたい。

ギャンゴはもちろん、成田亨・高山良策コンビによって、デザイン・造形された怪獣であるのだが、有名な話としてファンなら誰もが知っている通り、ギャンゴは第1話に登場したベムラーの改修スーツである。

主な改修箇所としては、尻尾の切り取り・耳アンテナの取り付け、足首下の新造・太い腕への付け替え・首部から腹部への模様追加、などなどが挙げられるのだが、例えば腕の付け替えに関しては、ベムラーが「前腕が太古の恐竜のように退化してしまっていたという部分」や、「横から見たときに、頭頂部から大きな尻尾まで流れたライン」などを、他の怪獣との差別化要素として持っていた部分が印象深いが、そこを「銀のメカらしいマジックハンドのついた太い腕」に変えて、尻尾を切り飛ばしただけでまったく別の怪獣に見せてしまうという、二人の芸術家が施したマジックには、半世紀経った現在でも驚かされる。

特に、首部から腹部へのトーテムポール模様に関しては、ギャンゴにとって一番特徴的な部分になっているほどに印象的だ。

『謎の恐竜基地』解説評論でも述べたように、この時期の『ウルトラマン』怪獣は皆、警戒色の黄色をイメージカラーにしているが、ギャンゴはそこで、黄色をメインにしながらも青や赤を巧みに配置。

見事なまでに、カラーテレビ時代に相応しい鮮やかな怪獣に生まれ変わった。

ベムラーからギャンゴに改修する際に排除された要素は、リアルな前腕や大きな尻尾など、生物感溢れた記号部分であり、逆にギャンゴとしてリデザインする際に追加された、アンテナ、マジックハンド、極彩色の模様などは、まさに非生物的要素であって、ギャンゴが自然界の産物ではないことを、デザイン・造形面からも表現しているのである。

ギャンゴのマジックハンドは、一般には(そしてソフビなどでも)それがまるで、手の指の代替的意匠として捕らえられているのだが、実はギャンゴの手のマジックハンドは、指の先に改めて着けられていることが、デザイン段階から明確に指示されているのである。

高山造形も、これを忠実に再現しているのであって、劇中、ビルのかけらを抱えて持ち上げるカットなどは、ギャンゴにそもそも指があったからこそ出来た芸当であろう。

また、ギャンゴの耳アンテナは二つそれぞれが逆回転することで、サイケな動きを再現しているのだが、このギミックなどは、後にエレキングのアンテナギミックに受け継がれている。

余談であるが、当時のマルサン・ブルマァク怪獣ソフビにおいて、元々がレッドキング改修着ぐるみであったアボラスや、ペギラ改修着ぐるみのチャンドラー等のソフビは、やはりレッドキングややペギラのソフビの頭部だけを改修して作られていたが、ギャンゴのソフビはベムラーとは関係なく作られていた。

これはマルサン時代にはまだベムラーが作られていなかったためであり、それゆえ同じ着ぐるみを元にしながらも、ギャンゴとベムラーでは、それぞれマルサンとブルマァクの作風の違いが見て取れるのである。

ちなみに、ギャンゴのマルサン時代のソフビでは有名なミスとして、初期のロットではなぜか尻尾が造形されている物が見受けられる。

もちろん、その尻尾はその後の販売ではカットされたのであるが、尻尾をカットした原型で抜きなおしたのではなく、個々の金型ごとに、尻尾の部分を埋めた物でそれぞれ抜いたため、尻尾がついていた部分の棘のディティールのバリエーションが、金型の数だけ存在してしまい、現代のコレクターを悩ませている原因になっている。

ギャンゴのソフビで、面白い話をもうひとつ挙げるとすれば、70年代後期に旧ポピーが展開したキングザウルスシリーズのギャンゴだろう。

このキングザウルスシリーズのギャンゴは、劇中同様に右耳が破壊された状態で造形されているのだ。

このように、怪獣がクライマックスを迎える前に受けたダメージを表現した、怪獣のソフビというのはギャンゴだけではなく、例えば『帰ってきたウルトラマン』(1971年)の怪獣であるシュガロンなどは、放映当時のブルマァクスタンダードソフビや、90年代のバンダイウルトラ怪獣ソフビなどにおいても、片目が潰された状態で造形されていたりするのである。

これらは、ギャンゴやシュガロンなどが、ウルトラマンと対決する時点では既に防衛隊の攻撃によって、耳や目が破壊されていたことに起因すると思われるが、しかし同じパターンで目を潰されたはずの、ツインテールやドドンゴなどといったソフビは、目が潰された状態で発売されたことがあるわけでもなく、必ずしもその表現方法に統一性があるわけでもないらしい。

ギャンゴが、鬼田という男の少年性をそのまま具象化した怪獣であっただけに、ギャンゴのソフビはいつの時代も子どもに人気が高かったという。

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