前回は「三留まゆみ×市川大賀 第七夜「三留まゆみと80年代邦画と」」

大賀 そこなんです。「70年安保の敗北感」。今回の対談冒頭で三留さんが言ってた「60年代生まれはダメだ」じゃないけれど、僕らより上の世代が持っていた、60年、70年の、二度にわたる安保闘争の敗北みたいなものへの、哀愁だったり憎しみだったり闘争心だったり、それまでの邦画って、多かれ少なかれ「そういうエキス」みたいなものが必ず含まれていたのね。『太陽を盗んだ男が、そういう鬱屈や負け犬の美学みたいなものを、70年代の最後の最後に来て、吹き飛ばしてくれた感がありましたよね。

三留 そう。むしろ『太陽を盗んだ男』は、歳をとってから観ると「あ、実はまだ(この映画のころは)戦後だったんだ」って思っちゃうのね。だからねぇ(長谷川和彦監督には)「映画撮ってくださいよ」って言ってるんだけどね(笑) 何年ぐらい前かのことだったんだけど。文芸坐から電話が掛かってきて「長谷川監督の特集を(プログラムで)組むんだけど、トークの時間があって、そこでの司会に、長谷川監督が三留さんを指名してます」って言われたのね。それでもう、びっくりですよ、本当に(笑) ところがね、ゴジ(長谷川監督の愛称)さんってすごいナイーヴな人でもあるのね。で、まだイベントまで日にちがあるうちから何回も(長谷川監督から)電話が掛かってきて、「あそこはどうしよう」「ここはこれを話そう」とか。

長谷川和彦監督

大賀 あぁ、(トークの)打ち合わせ?

三留 そう。それで(トークイベント)当日も、会場のファンからいろいろ質問票をもらうのね。それでまたその場で打ち合わせするんだけど、私の事を呼ぶのに、最初は「貴女」だったのが「君」になって、最終的には「お前」になってるのね(笑) 「お前がこういうこと(質問票の質問)を聞くと、お前が俺に聞いてるようになっちゃうからさ」とかって(笑) そういう部分も含めてゴジさんは「心配りの人」で、だからこそ「あぁここまで繊細だと、映画撮れないよな」っていうところが垣間見れてね。で「映画作るのも良いけど、(映画を撮ると)友達なくすしなぁ」とか言うのね。でもその時に「『連赤(連合赤軍の映画)』だけは撮りたい。これだけは撮りたい」ってまだ言うのね。で、うかうかしてる間にみんなに撮られちゃって(笑)

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