さぁ、地獄のタイムレースは始まった。
生まれてこの方、着ぐるみヒーローの造形物など、プロや友人が作ったり治したりしているのを、脇で呑気に見ていたことは多々あったが、まさか自分でやる羽目になるとは思わなかった。
無駄に一応知識だけはあるものの、手を動かすのは生まれて初めてで、門前の小僧習わぬ経を読むというわけにもいかない。
技術職は経験が結果に繋がる。経験がゼロでは、それなりの結果しか出てこない。
しかも、期限はちょいとした、百戦錬磨のプロを急がせるレベルの目の前。
これでまともな物など出来るわけがない(笑)
約十日間、ウレタンとラテックスとFRPと木工用ボンドとスプレー塗料に囲まれて、『宇宙刑事ギャバン』(1982年)の主役ヒーロー、ギャバンの全身をでっち上げた。
これが、その完成写真。写真は収録直前で、脇には当時の彼女がギャバンのヒロイン姿で一緒だったが、今回は一応さすがにトリミングしている。
しかし、酷い出来だ。いかにも雑な手仕事でしかない
「手作りの温かみ」とかの誉め言葉すらも空虚に思えるレベルで、これがギャバンに見えるのであれば、まだマシな出来であると自画自賛するしかないという自己弁護をするしかない。
しかし、逆にここまで手作り感満載のブサイクな出来だと、まかり間違っても、撮影・アトラク用マスクの複製品だと疑われまい。
時間もない。しょうがない。とりあえず、収録当日はこのギャバン一式を抱えてスタジオに乗り込むことになった。
イマドキのアニメ塾 1988年
MC 島崎俊郎 松本明子 桜金造
フジテレビ
僕は収録前に、周到にYさんを通じて、自分のマスクを絶対脱がせないように、身バレ厳禁をディレクターやタレントさん達に通達してもらった。
そして収録開始。 島崎俊郎さんと松本明子さんのMC二人の進行に対して、桜金造氏がいろいろキツイボケをかましてきて収録が進む。
僕は僕で、マスクをかぶったまま無言で立ち尽くしていれば良かったのだろうが、あまりにも暇なので、周りに立食パーティ形式で集まった女性コスプレイヤーと、はしゃいで談笑してしまっていた。
素面ならともかく、マスク越しに会話しようと思うと、結構それなりに声を張らなければならなくなる。
収録中に、その声が届いていたのだろうか。さて、島崎俊郎氏がコスプレイヤーを弄ろうというコーナーになって、途端に僕は標的にされて「マスクを脱げ!」と弄られまくってしまった。
それどころか。
決して目立ってはいけないこの番組の中。
一応形だけはパーティ形式なので、番組ラスト、即興で「コスプレイヤーNo.1」を選ぶというエンディングで、大賀さんのギャバンが、並みいるコスプレイヤーの中で、よしゃあいいのに、優勝してしまったではないか。
番組の中で登場した、アニメキャラの顔を模して作ったホールケーキ(今でいうキャラ弁みたいな雰囲気)が、優勝賞品とし与えられた。
結果、なんとか身バレは防げた。
一応、帰り支度の際にADに「本当に持って帰ります?」と、苦笑しながら渡されたケーキを持って帰宅したが、仲間内でやいのやいのいいながら食ったケーキは、どこまでもマジパンの味しかしなかった。
とほほである。
とほほ。
次回「市川大河仕事歴 出演仕事編Part5 『NHK BS熱中夜話 ウルトラマンナイト』」