「アニメで登場しなかったモビルスーツ」から「MSVシリーズ」へ
しかし、バンダイとガンプラは「俺はここだぜ 一足お先(by『宇宙刑事ギャバン』(1982年))」とばかりに、1982年夏の段階で「『ガンダム』アニメ劇中で登場するメカ」のガンプラ化をほとんど果たしてしまい、それでも新商品を望むファンの需要に応える形で、まずは『ガンダム』制作中に、富野由悠季総監督や大河原邦男氏の間で、ラフデザインや設定は出来ていたものの、決定稿には至らなかった(ジャブロー攻略戦で登場する予定だったとも言われている)ジオンの特殊工作モビルスーツ群が、正規のアニメ登場モビルスーツと同じ仕様で、1982年の7月の1/144アッグガイを筆頭に発売展開が始まった(様々な派生映像作品への登場を経て、2017年現在、これら没モビルスーツは「映像化の時点で公式」のサンライズルールの下、公式モビルスーツ扱いになっている)。
ガンプラはそれでも、それら没モビルスーツの商品化と並行する形で、アニメ版『ガンダム』登場の戦艦や一部の脇メカなどを出し続けてはいたものの、もうほぼ全てを商品化し尽くした1983年、バンダイは『月刊ホビージャパン』や自社カタログ小冊子『模型情報』等と企画をリンクさせる形で、アニメ『ガンダム』作品登場枠に縛られない、自社二次創作ともいうべき、モビルスーツ(MobileSuit)バリエーション(Variation)通称「MSVシリーズ」を開始する。
模型雑誌や関連コミック等でしか登場しない、各モビルスーツの試験型や水中戦闘用、砂漠戦型や、キャノン装備などの、文字通りバリエーションなどから始まって、ジョニー・ライデンやシン・マツナガといったジオンの架空パイロット専用機等、上手く既存のガンプラのファンをスライドさせることに成功した。
メディアミックスとしては、講談社の『月刊コミックボンボン』で、模型集団ストリームベースによる文章執筆と、イラストレイターの増尾隆幸氏によるイラストのコラボ『GUNDAM MSVエースパイロット列伝』が1983年11月から連載開始された。
また、ガンプラスタートからたった数年での技術革新の速さを逆利用することで、『プラモ狂四郎』に登場したパーフェクトガンダム、パーフェクトジオングなどの商品化は、現在進行形アニメ新作ファンだけではなく、初期からのガンプラファンに対しても別のアピール角度をもたらした。
具体的に言及するなら、「1/100パーフェクトガンダムの素体が、事実上1/100ガンダムのVer.2である」「1/144ザクマインレイヤーという商品は、マインレイヤー用のバックパックのパーツを使わないだけで、事実上の1/144ザクVer.2になる」等、ガンプラはシリーズの中で自己修復機能をも持ち始めたのだ(この自己修復機能が、良くも悪くも後年現代のマスターグレード(MG)等の商品のシリーズ展開を生んだ)。
また、ガンプラがMSVシリーズへ移行し始めた1983年。株式上場に向けバンダイは本社を存続会社としてグループ8社の合併を行ったため、合金ブランドのポピーがバンダイに統合されて消え(後に復活するポピーは事実上別ブランド)、合金とプラモデルが自社グループ内で競合することがリスクととらえられたのか、ガンプラはこの時期までずっとベストメカコレクションの一ラインナップという立ち位置を崩していてはいなかったが、ここへきてガンプラだけは単独でMSVシリーズへ移行継続。アニメロボットのプラモデルシリーズは、そのMSVと、1983年放映中の『聖戦士ダンバイン』の展開に絞り込み、ベストメカコレクション自体は、『ガンダム』の連邦軍戦艦1/1200サラミス発売後の、『科学戦隊ダイナマン』『光速電神アルベガス』(共に1983年)の、ダイナロボとアルベガスで終了している。
余談だが、旧ポピーのヒット商品怪獣ソフビのキングザウルスシリーズが1981年春に終了し、1983年から改めてバンダイから、ウルトラ怪獣シリーズなるソフビ怪獣シリーズが始動したのも同じ事情からである。
またこの1983年に、『機動戦士ガンダム』の放映時のメインスポンサーだったクローバーが倒産している。