岡本 難しいはもちろん難しかったんですが、ド素人だったんで、どんな役でも難しかったと思います。とりたててこれが難しい、これが難しくないというよりは、何もかもが初めてで、とにかく一生懸命やっていたという感覚ですね。エマさんって大人の女性だけれども、理想を凄く持っている、「青臭さのある軍人女性」じゃないですか。それが、私が初めてもらった役を懸命に演じている姿と重なったんじゃないかなと。そういうところが富野由悠季)監督の目の鋭さだなと思います。その後(富野監督に)言われたことがあるんですが、「これは大人の恋愛です」と。まぁよく覚えてるんですけれども、大人の恋愛も何も、恋愛自体なんなのかよく分かっていない17歳ですから、私は「はぁい!(明るく可愛く)」って言ったんです(笑) どうせ「どういうことですか」って聞いて色々話してもらったって、わかんないじゃありませんか。だから「はい!」って元気よく答えながら、「大人の恋なんだなぁ~」って思いながら頑張りました(笑)

――『Zガンダム』で「声優さんと富野監督」といえば、業界で有名な談話がありますよね。主人公のカミーユ・ビダンのオーディションを受けた声優の飛田展男氏が「(『機動戦士ガンダム』は)あんな良い終わり方したのに、なんで続編なんか作る必要があるんですか」と言ってしまい、飛田氏自身も諦めていたら、なぜかカミーユ・ビダン役が自分に決まったと言われたそうなんです。その後、討ち入り前のスタッフキャスト顔合わせのような場があり、そこで富野監督が「今なぜガンダムの続編なのか」へと言及。「ガンダムの続編に手を出す事で、批判的な反応があることは充分承知している。しかし業務として、作らなければいけないという現実があるんです」と説明したところで飛田さんを指さし「そこのあなた。納得しましたか?」と語ったという逸話があるんですが、この時、岡本さんもご同席されていたんでしょうか?

岡本 間違いなくその場にいたと思いますが、その流れは覚えてないんですよね。だって、それまでは、所長室に呼ばれて(勝田久氏に)怒られるだけだった私が、初めてオーディションに受かって、本当に全てが初めてだったので、舞いあがっちゃっていたというか。決まった報せが来たのはクリスマスぐらいだったんですけど。公衆電話で「おめでとう、受かったね」って。でも実は、その直前に勝田さんと大喧嘩して(学校を)飛び出したところだったので「クビだ」とかっていう連絡だと思ったら「おめでとう」って言われて、もう驚きましたね。で、その事件って、顔合わせ会みたいな感じで、年明けにあったように思います。声優の皆さん、おそらく初めてだから、鈴置洋孝 ブライト・ノア役)さんとかいらっしゃったと思うんですけど、何が起きているのか分からなかったんですよ、自分に。声優さんがフロアいっぱいにいますっていうだけで、いっぱいいっぱいだったので、先ほどの話はあったかもしれないですけど、全く覚えていないんです。

――戸惑いでいっぱいでしたか。

岡本 もう、戸惑いというか、呼ばれたから行ったけど、何をするんだろうという(笑)そもそも、アニメってどういう順番で作るのかも分からない状態だったんです。もう「まだ録音じゃないし、ここは録音スタジオじゃないし、なんで今日、私はここにいるんだろう」みたいになっちゃってました。「大ヒットした『機動戦士ガンダム』の6年後に、鳴り物入りで始まったので、特別な会なんだ」みたいな感じで受け止めてて、それで呼ばれて行って、初めまして、初めましてって挨拶をして回ったことはすごく覚えてますけど……。あと「大人がなんか喋ってるな」って感想で。なんていうか、乙女達って、右から左へ流す術を心得てるじゃないですか(笑) だから多分あんまり話は聞いていなくて、それより私は食べ物に夢中で、傍にいた年齢の近い女性声優さんたちと、きゃっきゃうふふしてた覚えがあります(笑) だから、飛田さんが仰られたことが本当にあったかもしれませんが、きっと私には意味が分かってなかったんですよね。

岡本麻弥さんの声優人生の初期に出会った『機動戦士Zガンダム』それは人生を変え、アニメ界も変えていった。しかし、『Zガンダム』最終話で、エマ・シーンは亡くなってしまう。続く一年、岡本麻弥さんを待っていたのは?

次回、「岡本麻弥アクトレスインタビュー・3『岡本麻弥と「ガンダムZZ」と女優という道と』」 君は、刻の涙を見る……。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事